創傷は現場で携わる機会が多くあります。治癒過程で正しいケアを行わなければ、感染を起こしたり治療の遅延に繋がったりと悪い方向へ向かってしまいます。看護師として治癒過程を理解して創傷の処置を正しく行い、治癒を促進できるケアをしていくことが大切です。
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看護師がおさえたい創傷とは
創傷は一般的に傷と呼ばれるもので、皮膚が様々な要因により損傷してしまったものをいいます。創傷の種類は創傷した皮膚の状態で次のように分けることができます。すり傷のように擦って皮膚が損傷を受けた傷を擦過傷、刃物で切った直線的な傷は切創、両側に圧がかかって亀裂ができてしまう裂創などがあります。また同一部位を長時間圧迫したことによって血行不良が起こり、細胞が障害され、状態に戻らない(不可逆的)状態となる褥瘡も創傷となります。高齢者を対象として看護を行う際、皮膚の弾力性が乏しくなっており、表皮が剥離してしまう(表皮剥離)ことがあります。このように擦過傷や切創、裂創など創傷の違いや褥瘡、表皮剝離といった創傷は看護師が多く携わるため覚えておく必要があるでしょう。
創傷処置の看護師の役割について
創傷処置は、適切な軟こうやドレッシング剤などを使用しながら感染を未然に防ぎ、治療を行います。医師も処置を行いますが、医師が看護師に処置を委ねることもあります。ここで看護師が期待される役割としては次のことが挙げられます。
創部の感染防止
創部の治癒促進ケア
創傷の治癒は創部の状態だけでなく、全身状態も関与してきます。現在治療している疾患は何か、栄養状態はどうなのか、認知症などで理解力はどの程度なのかなど創部の状態と合わせてアセスメント(状態の分析)をしていく必要があります。創部の感染を起こすと治癒過程が阻害されてしまい、いびつな形で皮膚を形成したり創部がふさがらなくなったりと治癒が遅延してしまいます。全身状態が良くない方であれば、創部から細菌が全身に回ってしまい、敗血症になってしまう可能性もあるため注意が必要です。状態を悪化させないように、良好な経過で治癒を促進するようなケアを行っていく必要があります。術後であれば、鎮痛剤を使用しながら早い離床(早期離床)を促していきます。早期離床を行うことにより、筋力低下を予防できるほか、全身の血行がよくなるため創部の治癒を促してくれます。医師と相談しながら看護師の役割をしっかり理解して、創傷処置に携わっていきましょう。
看護師が押さえたい 創傷の治癒過程
治癒過程は看護のケアにも直結するため、押さえておくべきポイントです。創傷の治癒過程を段階別に見ていきましょう。
創傷の治癒過程①出血凝固期
出血凝固期は受傷後数時間程度です。手術で切開した傷や転倒により裂創したものなど、形はさまざまです。受傷したばかりなので、まだ創部は少しの力で離開(開放)してしまいます。特に注意しておきたいのは、受傷した場所です。手術のように理由がはっきりしていて清潔な場所での受傷であれば問題は現段階では問題ありません。しかし不衛生な場所や土の上で転倒した場合には破傷風などの感染に注意が必要です。どのような場所で受傷したのか、しっかりと聞き取りましょう。出血凝固期では、凝固因子と血小板によって傷口をふさぐために凝血塊(かさぶた)となります。また血小板が活性化され、サイトカインや増殖因子が放出されます。このサイトカインや増殖因子が出てくることにより、これから治癒に向かっている段階でさまざまな細胞が活性化されて力を発揮してくれるようになります。
創傷の治癒過程②炎症期
出血凝固期からすぐに炎症期へ移行してきます。炎症期は3日程度で次に移行しますが、ここでしっかりと創部が洗浄化されていないと感染を引き起こすことになります。洗浄化は白血球が創部に向かって集まってきます。創部を発見すると白血球の好中球やリンパ球などが壊死組織(死んでしまった組織)を貪食(細胞内への取り込み)し、洗浄化していきます。出血凝固期で放出されたサイトカインや増殖因子が働くことにより、マクロファージや好中球などが活発に動けるようになります。また次の段階に行くため、連鎖的にTGF-βやFGFなどのサイトカイン、増殖因子が放出されていきます。手術の後であれば、炎症期で発熱が見られることが多く、頸部や腋窩、ソケイ部などにアイシングをしたり解熱剤などを使用したりすることもあります。サードスペース(細胞内や血管内以外の場所)に水分が以降して、循環血漿量が少なくなることで血圧低下や尿量の減少が起こるのもこの時期です。輸液管理などを行い、水分出納の管理を怠らないようにしましょう。
創傷の治癒過程③増殖期
次に受傷後3日以降に迎える増殖期になります。増殖期では新たな血管が芽生え、線維芽細胞が集まることで創部が閉じていく段階に入ります。炎症期とはっきりと分かれているのではなく、炎症期の終盤から新しい血管やコラーゲンの合成が始まってくるとされています。このときに浸出液などが固まっているガーゼを無理にはがしたりするなどの不適切な処置を行うと、凝血塊などがはがれてしまい、なかなか前に進まないような状況になります。線維芽細胞からコラーゲン(細胞外マトリックス)などが合成され、細胞同士の接着の足場となってきます。それと同時に新しく血管ができはじめ、肉芽組織が徐々にでき、欠損していた組織を埋める形で増殖していきます。ここでの線維芽細胞の増殖を促すのも炎症期に放出されたサイトカインや増殖因子が関与してきますので、受傷後数日間は創傷治癒では特に大切な期間となります。また炎症期から増殖期に移行する際、細胞の異常や浸出液の異常、細胞外マトリックスの異常などが起こると、創傷治癒過程が上手くいかずに慢性創傷となることが多いため注意が必要です。
創傷の治癒過程④成熟期
受傷から数週間経過すると成熟期になります。成熟期では創部は閉鎖され、皮膚の下では組織の再構築がされている時期になります。新しい血管により血管網が形成されたり、コラーゲンが成熟していったりと内部強化をはかります。始めは赤くなっている瘢痕ですが、次第に数か月で赤みがなくなり白色に変色し、色が変わっていくにつれて組織も柔らかくなっていきます。成熟期に入ると術後の処置もなくなり、ガーゼなども必要なくなります。しかし瘢痕を形成した部分は弾力性が普通の皮膚に比べると少ないため、離開しないために注意が必要となってきます。
創傷の治癒過程⑤急性期・慢性期について
創傷処置には急性期と慢性期があります。それぞれ定義や治療の内容が異なってくるので、誤った判断をしないように気をつけましょう。
急性期
急性期は受傷した時や褥瘡が発生して約1~3週間の不安定な期間とされています。急性期には全身状態が不安定であり、褥瘡の場合はいろいろな発生理由が混在している場合が多くあります。創部も発赤や浮腫、水泡、びらんなどの病態が現れてくる可能性があるため注意が必要です。治療としては洗浄を行い感染予防を行いながら、ドレッシング剤を使用して新生組織を除去しないように治療を進めていくことが推奨されています。ドレッシング剤を使用するときには透明で創部をドレッシング剤の上から観察できるものを選択し、新たな異常を早期発見できるようにする必要があります。また創部やその周囲の皮膚は弱く、皮膚剥離を起こしやすい状態のため粘着力の弱いドレッシング剤や非固着性の物を使用するようにしましょう。
ドレッシング剤を使用しない場合には、外用薬を使用して治療をする場合もある。外用薬を使用する際には、ガーゼ側に油脂性基材(白色ワセリンなど)を厚めに塗布することによって、浸出液の乾燥による創面へのガーゼ癒着を予防することが大切です。急性期には疼痛がある場合が多いため、疼痛管理も必要となってきます。早期離床の妨げになったり高齢者や認知症がある方はせん妄のリスクとなったりするため、鎮痛剤を医師と相談しながら使用して軽減していく必要があります。
慢性期
慢性期になると創部の離開や感染予防が大切となります。定期的にDESINGツールなどを利用して評価を行っていく必要があります。※創部の洗浄は細胞毒性のある消毒液などは使用せずに、生理食塩水や蒸留水、水道水の仕様が推奨されている。
創傷の表面にはいろんな残留物や壊死組織などがあるため、ある程度の圧をかけて石けんを用いて洗浄を行っていきます。ドレッシング剤には浸出液を減少させる効果はありません。浸出液をしっかりと吸収・保持して創部を湿潤に保てるドレッシング剤を選択するようにしましょう。※ポリウレタンフォームが現在は推奨されている。慢性期でも急性期同様に疼痛は呈するため、配慮が必要になってくる。疼痛の程度をしっかりと聴取して医師へ報告し、鎮痛剤の検討をすることが必要です。
創傷の治癒過程に応じた看護師が注意するべき点について
最後に看護師が治癒過程に応じた注意するべき点について見ていきましょう。
感染兆候
治癒過程の全ての段階で注意したいのが感染兆候です。炎症期や増殖期に感染を起こしてしまうと、その後の治癒過程が阻害されてしまい、慢性創傷となってしまいます。慢性創傷となると時間もコストも大幅に増大してしまうため、身体的にも経済的にも良くありません。洗浄を行い、ドレッシング剤や外用薬を効果的に使用して感染を起こさずに成熟期を終えられるよう支援していきましょう。また感染兆候を見逃さないためにも発赤や腫脹、熱感などは見逃さないようにすることが大切です。感染兆候を早期に発見できれば、すぐに治療にとりかかり治癒過程に大きな影響を与えずに済みます。
疼痛管理
皮膚に創傷が生じると疼痛は必ずと言って現れます。この疼痛が原因で早期離床ができなかったり、不眠につながり、中にはせん妄に繋がる方もいらっしゃいます。他のスタッフとも情報共有するためにスケールを使って疼痛の状態を把握し、鎮痛剤を使用しながら疼痛管理を行っていきましょう。また鎮痛剤の使用以外にも、ドレッシング剤の交換時や圧迫による疼痛などケアの方法を工夫することで疼痛を軽減する方法はあります。どのようなときに、どの程度の、どんな疼痛が出現するのかを確認しながら疼痛の原因を探りましょう。
ドレッシング剤の選択
創部の状態に合わせたドレッシング剤の選択が必要になってきます。創部の感染状況はどうなのか、浸出液はどの程度なのかなど観察を行い、適切なドレッシング剤を選択していきましょう。またドレッシング剤を使用する目的をはっきりとしておく必要があります。創部を保護するためのドレッシング剤なのか、治癒を促進するためなのかなど必ず確認して使用することが大切です。また創部が脆弱な状態で固着性のものを使用すると、はがすときに新生組織をはがしてしまったり、皮膚剥離を起したりと危険ですので非固着性のものを利用するようにしましょう。
全身状態の確認
皮膚損傷や褥瘡などは栄養状態に左右されることも多くあります。低栄養状態であったり糖尿病があると治癒遅延や感染などのリスクが高くなってきます。早期離床ができず、寝たきりの状態になると循環動態も悪くなり、活動量も少ないため食事量も増えず、栄養状態が悪化する可能性も出てきます。そうなると悪循環に陥ってしまうため、全身状態の確認は必ず行いましょう。また傷が原因で蜂窩織炎や敗血症などになることも少なからずあります。創部だけでなく全身を観察することで重症になる全段階で兆候がわかり、早期治療に繋げることができるためしっかりと観察しておきましょう。
正しい知識を持って創傷への適切な看護を
治癒過程における看護について見ていきました。出血凝固期から成熟期まで、感染兆候があったり全身状態が悪かったりすると治癒遅延が発生して身体的にも経済的にも負担がかかってしまいます。治癒過程の段階で必要なケアを正しく判断し、治癒を促進するケアができるようにしっかり頭に入れて現場で活かしていきましょう。