サルコペニアとは、筋肉の量が低下していく状態のことで、さまざまなことが原因になります。近年、診断、治療を行うべきひとつの病気として国際的にも認識されています。サルコペニアの定義や治療、看護についてみていきましょう。
Contents
サルコペニアとは
サルコペニアとは、主に加齢によって起こる全身の筋肉量減少と、それに伴う筋力低下、身体機能の低下のことをいいます。サルコペニアになると、歩く、立ち上がるなどの日常生活の基本的な動作に影響が生じ、介護が必要になったり、転倒しやすくなったります。また、サルコペニアが進行すると、長期の臥床状態、嚥下機能が低下するといった状態に陥り、生活の質の低下や元々持っている慢性疾患にも影響します。活動性の低下は新たな病気の発症にもつながる可能性もあり、サルコペニアの予防と早期の治療が重要です。
サルコペニアの原因
活動性の低下
サルコペニアの要因の一つとして、寝たきりになったり、運動不足になったりと、活動性が低下することで、サルコペニアを引き起こす可能性があります。たとえば、入院中の患者さんがベッド上安静だと、1日に0.5%ほどの筋肉量が低下し、筋力は0.3~4.2%ほど減少するとされています。
加齢
年齢を重ねると、筋肉となるたんぱく質が体内で合成されにくくなり、また分解されやすくもなります。そのため、50歳以降は身体の筋肉量は1年に1~2%ほど減少するとされています。
疾患
炎症消耗性や、神経筋疾患、悪性腫瘍、慢性の臓器不全などの疾患によってサルコペニアを引き起こす場合もあります。
栄養障害
栄養摂取量が必要量に達していなかったり、経管栄養や点滴でたんぱく質の摂取量が足りなかったりすると、低栄養に陥ります。たとえば、誤嚥性肺炎で入院した患者さんが、本当は食べられるのに維持輸液のみで数日過ごすと、筋肉量は減少します。
サルコペニアの症状
サルコペニアでは筋肉量の減少によってさまざまな身体機能の低下がみられます。具体的には、日常生活で下記のような症状を自覚することが多いです。
• 歩くスピードが遅くなる
• ふらつく、転倒しやすい
• 階段の上り下りが遅くなった
• 握力の低下
• 痩せる
• 姿勢を保持できない
• 食事が飲み込みにくい・むせる
これらは高齢になると誰にでも起こりうる症状ですが、早期発見をして予防をすることで、身体機能を維持することができます。
サルコペニアとフレイルの違い
サルコペニアは、筋肉が減り、身体の機能が低下した状態をいいます。握力が低下しているか(男性26㎏未満、女性18㎏未満)、または歩く速度が低下していて(0.8m/秒以下)、検査で筋肉量が基準より減少していることが認められると、サルコペニアと診断されます。サルコペニアと並んで「フレイル」という言葉をきかれることもあるでしょう。フレイルとは、加齢とともに心身の運動機能や認知機能等が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態とされています。一方で、適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態とされており、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。多くの方は、フレイルを経て要介護状態へ進むと考えられていますが、高齢者においては特にフレイルが発症しやすいことがわかっています。フレイルの人はサルコペニアを合併することも多く、サルコペニアがフレイルの一つの原因ともいえるでしょう。
サルコペニアの治療
運動療法
筋肉量を増やし、筋力や身体能力を改善するためには、抵抗を加えた筋力トレーニングなどの運動と、低強度の有酸素運動が効果的であることが言われています。全身の筋肉を動かすことで骨格筋が収縮し、筋肉の成長を促すたんぱく質合成が誘導されます。入院中の患者さんであれば、抵抗を加えた筋力トレーニングは、転倒予防効果も期待して、ベッドサイドでのスクワット、もも上げ、つま先立ちなどの運動も効果的です。また在宅では、毎日のウォーキングや散歩、サイクリング、水泳、ラジオ体操など、軽く息が弾む程度の有酸素運動を行うことも大切です。入院中では、なるべくベッドから離れて生活をする、在宅では毎日の生活の中で、1日1回以上外出し、身体を動かす活動と筋力トレーニングを無理のない範囲で実施し、習慣化して継続していくことが大切です。
栄養療法
骨格筋量、筋力、身体機能は、たんぱく質の摂取量に深く関係しており、たんぱく質の摂取の重要です。高齢者では、若い人に比べてたんぱく質合成によって筋肉を成長させる働きが低下しているため、良質なたんぱく質を食事全体の摂取カロリーの2割程度を目指すことが推奨されています。しかし、過度なたんぱく質摂取は腎障害のリスクを高めるため、腎機能の低下がみられる高齢者は医師や管理栄養士への相談が必要です。たんぱく質の摂取とともに身体活動・運動を行うためのエネルギーや、骨代謝や抗酸化作用を促すビタミン・ミネラルを摂取することも大切です。必要なたんぱく質とエネルギーの摂取を行い、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。
薬物療法
筋肉でのたんぱく質合成を促すには、必須アミノ酸のロイシンを補給すると効果的であるといわれています。また、加齢によって機能が低下するホルモンの補充療法の研究も行われており、精巣から分泌されるテストステロンや成長ホルモンの投与によって、骨格筋量の増加が認められたと報告されています。
リハ栄養とは
リハビリテーション栄養(以下、リハ栄養)とは、国際生活機能分類(ICF)を用いて行う栄養状態も含めた評価の結果に基づき、リハと栄養管理の両方からアプローチをしながら、患者さんの生活機能、たとえば嚥下機能や日常生活活動(ADL)などの改善を目指すことで、QOLをできるだけ高めるという考え方です。リハ栄養は、トレーニングと栄養管理を車の両輪として考えるところから始まっており、複数の原因を有するサルコペニアに有用とされています。
医原性サルコペニアとは
医原性サルコペニアとは、①病院での不適切な安静や禁食が原因の活動によるサルコペニア、②病院での不適切な栄養管理が原因の栄養によるサルコペニア、③医原性によるサルコペニアといいます。急性期病院での「とりあえず安静」「とりあえず禁食」「とりあえず電解質輸液のみ」の指示で生じることが多いです。例えば、動くことができるにもかかわらず安静にし過ぎたり、食べることができるにもかかわらず禁食で過ごしたりすることがサルコペニアの原因にもなります。また、医師や看護師などによる不適切な栄養管理、たとえば低カロリーの点滴だけで一定の期間入院することで、サルコペニアに陥るといったことも医原性といえます。
医原性サルコペニアを作らない看護
医原性サルコペニアの予防や治療には、リハ栄養の考え方が重要です。たとえば、誤嚥性肺炎の入院後に適切なアセスメントを行い、可能な場合には早期に離床し、経口摂取を行います。可能であれば入院当日から、ベッドサイドでのリハビリテーションも開始します。経口摂取困難で禁食の場合、禁忌でない限り入院後にアミノ酸製剤や脂肪乳剤を含めた末梢静脈栄養管理を行います。疾患の治療と同時に、多職種で連携してリハと栄養管理も入院後早期からの介入が、生活機能やQOLを低下させないリスク管理として大切です。