医療スタッフに対する暴力や暴言等のクレームが増加し医療現場はその対応も行わなければなりません。また「モンスターペイシェント」の存在もマスコミ等で取り上げられるようになりました。今回のコラムではそのような問題の概要について紹介させて頂きます。
不当要求とは、相手が不当な手段をつかって要求してくる行為のことです。患者さんから受ける不当行為の中には、暴力・脅迫・面会の強要・誹謗中傷や名誉棄損・業務妨害などがあります。それぞれどのような問題があるのか、どのような対応が求められるのかご紹介します。
Contents
不当要求の判断基準
暴力行為
患者さんのクレームでは、看護師が暴力行為を受ける場合があります。暴力行為とは、直接暴力を振るうだけでなく、机をたたく・椅子をける・ものを投げるなどの行為も含まれます。普段の生活で、看護師が患者さんから直接暴力を振るわれるケースは少ないでしょう。それでも、クレームを言った最初の対応が悪いと、患者さんをひどく怒らせてしまう場合があります。身体的暴力を振るわれたら、1人で対処するのは避けてください。話しても暴力をやめてくれない場合は、警備を呼ぶなど対処しなければなりません。机をたたくなどの間接的な暴力の場合は、「警備を呼ぶ」と注意を促します。毅然とした態度で接すれば、患者さんも行き過ぎた行為だと反省してくれるでしょう。
脅迫行為
患者さんのクレームの中には、脅迫行為があります。脅迫とは、相手が不利になるよう脅す行為のことです。「ぶっ殺す」といった暴言や、「ネットで晒してやる」などの脅しがあります。看護師が冷静に対応しても収まらないようなら、数人でクレーム対応しましょう。必要であればお互いのために、クレーム対応の様子を録音するよう患者さんから許可をもらいます。脅迫は立派な罪で、証拠が残れば患者さんにとって不利となります。罪となることを伝えれば、止めてくれるかもしれません。頭に血がのぼって正常な判断ができなかった患者さんでも、冷静な対応をしてくれるでしょう。お互いに冷静な話し合いをするため、状況に応じて毅然とした対応が必要です。患者さんが罪に問われることになれば、2年以下の懲役、または30万円以下の罰金の可能性があることを伝えてください。
面会の強要
面会の強要とは、面会できないと丁寧に説明したにも関わらず、患者さんの関係者が脅迫する行為のことです。例えば、「上司を出せ」「院長を出せ」などと言ってくる場合があります。患者さんの関係者が面会時間外や、面会謝絶時に面会を強要したら、きちんと説明しましょう。クレームを言ってくるということは、患者さんの関係者にも特別な事情があるかもしれません。事情を汲み取り、きちんと説明すれば、多くの患者さんの関係者は納得してくれます。それでも患者さんの関係者が強要しようとするなら、「できない」と答えてください。要求に答えられない場合は、要求そのものを否定するのではなく、答えられない意思を伝えるようにします。一度で納得できない場合でも、何度も繰り返すと納得してくれる可能性が高まります。
誹謗中傷・名誉棄損
誹謗中傷・名誉棄損とは、相手の身体的な特徴を指摘するなどの行為です。個人を攻撃してくる場合は、1人で対処せず集団で対応するようにしましょう。誹謗中傷や名誉棄損は、立派な犯罪になります。法的措置がとれるように、相手の住所や名前などを聞き出しておきます。相手も個人の情報を聞き出そうとするかもしれませんが、看護師側は絶対に教えてはいけません。必要があれば、会話を録音する措置も必要でしょう。誹謗中傷や名誉棄損の疑いのある患者さんへは、法的措置を取る警告をしてください。「警察を呼ぶ」と伝えるのも有効で、冷静な対応をしてくれる可能性が高まります。患者さんが暴言を吐くのは、最初の対応が悪かった可能性があるため、クレーム対応を見直す必要もあるでしょう。
業務妨害
業務妨害とは、集団でおしかける、または大声を出すなどの行為のことです。病院の通常の業務ができないようなら、毅然とした態度をとるようにしましょう。患者さんであっても、業務妨害は違法行為です。警備を呼ぶ、または警察を呼ぶなど言葉で警告してみます。それでも業務妨害をやめてくれなければ、警察を呼んで対処してもらうしかありません。患者さんが業務妨害するときは、状況をメモに取るなど証拠を残しておきます。警察を呼ぶタイミングは、暴力や器物破損など違法行為に発展した場合です。それまでは、冷静に話し合いするよう心掛けてください。最初の数分間の対応が重要で、聞く耳をもたない場合や、危害を加えるようなら適切な対応をしてください。
不当要求時の対応について
患者さんが不当要求する場合は、個人で対処を決めないようにします。最終的な判断をする人は、対応者ではなく責任者です。患者さんがそこまで怒るのは、看護師側の対応に問題があるためです。十分な説明がなかった、相手のプライドを傷つけた、相手の話を聞かなかった、病院システムに問題があったなどの理由があるのでしょう。どの職員も親身に対応できる体制がないと、患者さんの不安や不満が蓄積します。ただし、きちんと対応したにも関わらず、暴言を吐く患者さんもいます。とくに狙われやすいのは弱い立場に見える人で、新人や若い女性が当てはまるでしょう。コミュニケーションスキルが未熟で、悪質なクレーマーと一般のクレーマーを同じに扱う人も注意が必要です。弱い立場の人に対し攻撃する患者さんは、悪質なクレーマーに発展する可能性を考えましょう。看護師が適切なクレーム対応を受けるのはもちろんですが、対応が難しければ上司や責任者に対応を任せることが大切です。
まとめ
患者さんが不当なクレームを言ってくるのは、何か不安や不満が隠れています。看護師が対応する際は、患者さんの本当の欲求を引き出すようにしましょう。最初の対応が良ければ、不当要求まで発展する可能性が低くなります。現代社会ではSNSの普及により、一方的な主張ができるようになりました。患者さんが不満をもった場合に、手軽に脅す行為ができるため注意が必要です。このように患者さん側のモラル低下により、悪質なクレーマーとなる可能性は否定できません。自分で対応できないと判断したら、上司や責任者に対応を任せて、適切な処置をとってもらいましょう。普段からどのような際で上司に任せるべきか確認しておくと、患者さんへの対応で迷う心配がありません。必要であれば、毅然とした態度で患者さんに接するようにしてください。
続きとして、『看護師のためのクレーム対応マニュアル7』はこちら
ライター情報
小林・40代