高次脳機能障害とは 症状と適切な看護方法について

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高次脳機能障害は、看護の場面では多く聞く言葉ですが、その症状や看護についてくわしく知っていますか?高次脳機能障害は症状が複雑です。

症状を知り、必要とされる看護をしっかり考えられるように、高次脳機能障害について知りましょう。

 

看護師が押さえたい 高次脳機能障害とは

 

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高次機能障害は、なんらかの原因により脳が損傷を受けたときに起こります。

脳は、刺激を受けた内容・情報を処理し、記憶する、判断する、行動するなど、さまざまな認知活動を行います。

この認知活動を高次機能と言いますが、脳の損傷により、障害が起こっている状態が「高次脳機能障害」です。

損傷の原因としては、怪我による脳外傷、脳梗塞、脳出血など病気によるもの、低酸素状態になったことによるものなどがあります。

高次脳機能障害と診断されるには、いくつか基準があります。

 

① 脳の器質的病変を引き起こす怪我や疾患があること
② CT、MRI等の検査により、脳の器質的病変が確認されている
③ 脳の損傷の原因となる出来事の後から、記憶障害、注意障害など、認知能力の変化がある

 

高次脳機能障害は、外見上は問題がないことも特徴の一つです。

受傷・疾病の急性期後に、身体的な機能は問題がないが、記憶障害がある、注意力の変化、社会的活動に支障があるといった場合には、高次脳機能障害の可能性があります。

 

看護師が押さえたい 高次脳機能障害の症状

 

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高次脳機能障害は、脳の障害です。外見上では判断できず、生活に支障が出ているにも関わらず、周囲から理解されないといった問題点があります。

高次脳機能障害の症状として失語症がありますが、周囲にはっきりとわかるような症状ばかりではありません。

記憶力の低下、注意力の低下などは、周囲からはわかりにくく、程度によっては、本人もはっきりと自覚できず、「怪我(または病気)の後からなんとなくおかしい」と、抽象的な訴えの場合もあります。

脳に損傷を与える怪我や病気の後で、身体的に問題はないが、受傷前と同じようなことができなくなった。そんなときは、高次脳機能障害の可能性があることを覚えておきましょう。

脳の損傷した場所によって症状が異なります。高次脳機能障害の主な症状として、次の五つがありますが、脳機能はそれぞれ独立したものではなく、関連した働きがあると理解しておきましょう。

 

高次脳機能障害の症状①記憶障害

 

脳の側頭葉が損傷されると、記憶障害、言語に関する障害が起こります。

脳は経験したことを記憶し、必要な場面でそれを取り出し意志や行動に反映させる働きをしています。記憶に関する障害が起こると以下のような問題が出てきます。

 

・以前経験したことを覚えていない
・新しいことを覚えられない
・日付や場所の認識ができない(見当識障害)

 

会話が成り立たないこともあり、同じ話を何度も繰り返す。買い物に行っても、何を買うのか覚えていない、何をしようとしていたのかすぐに忘れてしまうといった症状もあり、人間関係や社会生活に支障が出てきます。

記憶障害がある患者は、新しく物事を覚えることができない、思い出すことができないという症状があるため、同じ動作や話を繰り返す必要があります。

日常生活では、決まった時間に同じことをするなど、習慣化させる手助けが必要になります。メモの活用も有効です。話した内容をメモしておくといいでしょう。

 

高次脳機能障害の症状②注意障害

 

注意障害のある患者では、「いつもボーッとしている」「気が散りやすく集中して物事に取り組めない」という症状があります。

こういった症状は、病気として認識されにくく、周囲から「ちゃんとして」と思われがちです。

複数の物事を同時に進めることができなくなるため、これまでは問題なくできていた車の運転などにも支障が出てきます。

空間把握能力に影響が出ることもあります。脳の損傷のある方と反対側の空間の認識ができなくなる症状で(半側空間無視)、目の前に人がいたり、障害物があったりするのに、ぶつかるまでまったく気がつかないなどがあります。

体に麻痺がある、ないは関係ないため、身体的な問題がなければ「変な人」と思われてしまい、病気の症状としては認識されにくいものでもあります。

複数の動作を同時にできないため、物事一つひとつに集中できるような環境つくりをしてあげるといいでしょう。食事のときは食事、作業のときは作業というように、動作を区切って行動できるようにします。

半側空間無視は、一緒に行動する人がいるときは、認識されない側に同行する人が立つと安全です。

 

高次脳機能障害の症状③遂行機能障害

 

遂行機能障害は、目的を持って行動することができなくなる障害です。

段取りを立てて物事を行うことができない、時間を守って行動することができないといった行動がありますが、性格に問題がある、生活がだらしないなどの誤解を受けやすい部分があります。

また、決まった通りにしか動けないため、単に融通の利かない人と思われてしまうことも。臨機応変に行動する、優先順位を考えるといった行動が取れなくなります。

これは、記憶、判断力などが障害されていることが原因となります。

生活の中で時間を区切る場面ではタイマーを活用する、同じルーティーンで物事を行うなどの工夫をしてみるといいでしょう。

 

高次脳機能障害の症状④社会的行動障害

 

イライラして怒りっぽくなる、我慢することができないといった情緒面に影響があるのが社会的行動障害です。

身体的・言語的に問題がない場合、「わがままな人」と思われがちです。何がなんでも自分の要求を通そうとする症状もあり、思い通りにならないと感情的になり、大きな声を出すなどの行動もあります。

情緒、行動を司る前頭葉の損傷でこういった症状が起こりやすくなります。脳の損傷が原因のため、本人にもどうすることができない行動ですが、周囲や家族の理解が得難い症状でもあります。

この症状がある患者は、周囲から敬遠されがちになるなど、「病気だから」とすんなりと受け入れてもらえないことがあります。

病気の症状である以上、本人の努力でどうにかなることではありません。まずは家族や周囲がそのことを理解し、イライラするような場面からは遠ざけるなど、行動を本人任せにしないことが求められます。

 

高次脳機能障害の症状⑤失語症

 

言葉に関する障害が出るものです。左大脳の言語中枢の損傷で起こります。

失語症は大きく2つの症状に分かれます。

 

・ブローカー言語障害(運動性失語)
相手が話していることは理解できるが、うまく言葉にできない状態です。話の内容は理解できているので、コミュニケーションボードなどを活用すると、円滑なコミュニケーションの手助けになります。
・ウェルニッケ言語障害(感覚性失語)
話の内容を理解することができなくなる障害です。発語に問題がない場合でも、相手の話す内容が理解できないため、会話が成り立ちません。

 

失語の状態としては、ブローカー言語障害よりも重度であるとされています。この違いは、脳の損傷した場所の違いによって起こります。

ほかにも、物は見えているが、それが何なのかを認識することができない「失認」、麻痺はないが、目的の行動ができない「失行」などの症状もあります。

失認の症状があるときは、顔を見ただけでは誰なのかを認識できないことがあります。「看護師の○○です」とまず名乗って認識してもらうなど、声かけを積極的に行いましょう。

失行では、箸がうまく使えない、着替えができないなどの支障が出てきます。麻痺がないのにどうしてと思いがちですが、これも脳の損傷による症状の一つであることを理解し、根気よく付き合うことが求められます。

いずれの症状でも、見た目からはわからないものが多く、変わった人、わがままな人も思われ、周囲から誤解を受けることが多くあります。

学校や会社といった社会的生活はもちろん、日常生活にも支障が出てくることが多いのに、理解されない。何よりも、患者本人がこのことに苦しんでいることを、看護師は理解する必要があります。

どんなサポートが必要なのかを見極め、退院後にも適切な支援を受けられるよう考えてみましょう。

もちろん、看護師だけではなく、多職種と連携していきますが、看護師が果たす役割は大きなものがあります。

患者の日常をよく観察し、できること、できないことをしり、適切な看護支援をしていきましょう。

 

高次脳機能障害の看護計画はどう組むべきか

 

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高次脳機能障害の看護計画は、患者の症状や受傷の原因などによって、その内容はまったく変わってきます。

患者の症状の観察のほか、どんなことが問題点になるのかを明確にする必要があります。

脳血管障害による損傷であれば、身体に麻痺は残っているのか、疾患の治療計画、リハビリテーションの必要性なども確認していきましょう。

外傷後の高次脳機能障害の場合、怪我が完治して身体的な問題がなくなれば、外見上は問題がありません。

周囲の理解が得難いだけでなく、本人も「怪我は治ったのに」と、障害を受け入れられないことも考えられます。

障害が原因で病識がない場合もあり、いずれの場合でも、支える家族を含め、精神的なサポートが必要になることが多くあります。

看護計画の立案で踏まえるべき点は以下の3つです。

 

・患者の症状
・社会的背景
・家族構成

 

上記を十分にふまえた上で、問題点を明確にしていくことが求められます。

患者を始め、家族との十分なコミュニケーションが大切です。

高次脳機能障害の程度によっては、自立した社会生活を送ることが困難になることもあるため、家族のサポート体制、社会的支援も視野に入れなければいけません。

高次脳機能障害の看護では、多職種との連携が必要な場面も多々あります。退院後の生活も視野に入れた、具体的な看護計画が求められます。

入院中のサポートはもちろんのこと、退院後にどのような生活になるのかを考慮した看護計画を立てられるようにしましょう。

入院している間だけの問題が解決できればいいわけではなく、退院した後に円滑な生活が送れるように手助けするのが看護師の役割でもあります。

看護計画は苦手という人もいますが、患者に必要なケアは何かを考えて計画を立ててみましょう。

 

高次脳機能障害の看護研究

 

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看護研究を取り入れている職場は多くあり、よりよい看護を目指すために欠かせない活動です。

しかし、看護研究は大変なイメージがあり、できればやりたくない……と考えている看護師がほとんどではないかと思います。

看護研究でまず考えなければならないのが、テーマです。高次脳機能障害の看護研究は、複数のテーマがあります。

まずは、どこに焦点をあてるかを考えてみましょう。

看護研究は大変ですが、やりがいもあります。自分以外の看護師の看護観を知る機会でもあるので、積極的に取り組みたいですね。

 

高次脳機能障害患者本人のセルフケアの取り組み

高次脳機能障害では、生活の中でさまざまな不都合が生じます。

その中で、セルフケアにどう看護介入して行くかをテーマとした看護研究が多くあります。

実際に高次機能障害の患者と関わる中で、その方が何に困っていて、看護師としてどう手助けしていくのか、一人ひとり必要としていることは違います。

注意障害の症状がある患者でも、必要とされるケアはそれぞれ違いがあり、どう看護介入したらよいのかに焦点をあててみましょう。

 

高次脳機能障害患者を支える家族への看護介入

看護介入を必要としているのは、患者本人だけとは限りません。

高次脳機能障害では、家族や周囲のサポートが必要となることが多く、家族に焦点をあてた看護研究も多岐にわたります。

外見上は問題がなく、高次脳機能障害の症状に周囲からの理解が得られなく苦しんでいるのは、家族も同様です。

介護を負担と感じている家族が多くいることも事実です。

こういった背景を踏まえ、家族ケアに関する看護研究も多く行われています。

また、主となる配偶者や親ではなく、同居するきょうだいへの影響をテーマにした看護研究もあります。

 

まとめ

 

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高次脳機能障害では、身体的な問題がないことから、周囲の理解が得られないということが多くあります。

「性格の問題」「やる気がない」などと捉えられる場面もあり、家族や周囲との関係に亀裂が生じる恐れも。

看護師自身が高次脳機能障害の病態をしっかり把握し、患者や家族に適切な指導をすることが求められます。

家族は患者の退院後の生活を支えていく役割もあるため、家族には障害についてしっかりと理解してもらう必要があります。

退院後に患者がどのような生活を送るのかをふまえた上での看護計画の立案や、生活をサポートしていくため、多職種との連携も求められます。

高次脳機能障害とひとことで言っても、患者により症状は異なり、問題点も様々です。

今まで通りの生活が送れない、自分の思うような行動が取れないという精神的苦痛を理解し、寄り添う姿勢が求められます。

よりよい看護を提供するために、高次脳機能障害についての理解を深め、個々の患者に合わせた看護を提供していきたいですね。


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