災害支援のプロフェッショナル!DMAT看護師の役割と必要なスキル

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災害現場の最前線で活躍するDMAT(Disaster Medical Assistance Team)。

2024年1月1日に発生した能登半島地震でも、全国各地からDMATチームが集まりました。活動の場所は病院や災害現場だけでなく、避難所や高齢者施設など多岐に渡ったそうです。

 

「DMATは実際にどのような活動をしているのか」「DMAT看護師になるにはどんなスキルが必要なのか」気になる方も多いのではないでしょうか。

今回は、DMATの概要やDMAT看護師としての役割、必要なスキルについて解説します。今後の看護師としてのキャリア形成の参考になれば幸いです。

DMATとは?

DMAT(Disaster Medical Assistance Team)とは、“災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム”のことを言います。

1チームの基本的な構成は、医師1名、看護師2名、業務調整員(医師・看護師以外の医療資格を持った職員が事務職員)1名の計4名です。

 

DMATは、災害発生から48時間以内に被災地に向かい、活動をはじめます。派遣場所の被災状況によって活動の時間は異なり、DMATの活動が長期間必要な場合は、第2隊、第3隊と追加で派遣されることもあります。

 

DMATの目的と活動内容

DMATの主な目的は、災害時に迅速かつ効果的に医療支援を提供することです。

活動は、大規模な地震や豪雨災害だけではありません。航空機や列車、高速道路などにおける事故や火災、新型コロナウイルスなどの新興感染症への対応でも、DMATの出動要請があれば対応します。

具体的な活動内容は、以下の通りです。

災害現場での応急処置 派遣要請を受けたDMATは、まず活動拠点本部となる被災地の災害拠点病院に入ります。本部の統括者の指示で、直接災害現場におもむき、けが人の応急処置を行います。
被災者のトリアージ 被災地域は医療体制や医療資源が不足します。けが人も多く発生する状況で、限られた医療資源を最大限活用できるよう、患者の重症度や緊急性を見極めるトリアージを行います。
広域医療搬送 被災地域での医療対応が難しい患者を、被災地域外へ空路を使い搬送するものです。DMATは、患者の搬送のみならず、空港などの航空搬送拠点に設置される臨時の医療施設(ステージングケアユニット:SCU)でも診療にあたります。
被災地の医療機関の支援 医療機関自体も被災しながら、多くのけが人の対応を求められます。医療機関内での院内トリアージや診療の支援もDMATの活動の1つです。

DMATが発足した背景には、平成7年に発生した阪神淡路大震災の経験があります。

けが人が多く発生した中で病院自体も被災したことで、初期医療体制の遅れが生じ、十分な医療提供ができない事態がおこりました。平常時であれば助かっていたはずの命も助からなかったのです。

この経験を機に、平成16年に東京DMAT、翌年の平成17年に日本DMATが発足しました。

 

今後静岡県でも大きな被害がおこるとされている、南海トラフ巨大地震や富士山の噴火などでもDMATの活躍が期待されるでしょう。

 

DMAT看護師の役割

ここまでDMATの概要や主な活動内容について説明してきました。

では、DMATに所属する看護師は災害現場や病院支援などのさまざまな場面でどのような活動をするのでしょうか。その活動内容や責任について、具体的に説明します。

 

災害現場での活動

被災地の災害拠点病院に入ったDMATは、本部の統括者の指示で災害現場に直接おもむくこともあります。

 

DMATチームは、災害現場へ自力で移動しなければなりません。実際に現場に入ったDMAT看護師は、現場の医療需要に応じたフレキシブルな対応を求められます。活動中の救助隊などと連携し、他のDMATチームとも情報を共有しながら活動を行う必要があるでしょう。

 

災害現場では、救助されたけが人の応急処置やトリアージを行います。

トリアージとは、治療の緊急性を判断し、優先度を決めるものです。重症度別に色分けされたトリアージタッグと呼ばれる識別票を使用します。災害時には同時多発的にけが人が発生し、治療を必要とする人すべてに対応するのが困難になります。そのため、トリアージは災害時の医療現場には欠かせないものなのです。

また、応急処置後のけが人を被災地内の医療機関へ搬送することも、DMAT看護師の重要な役割です。

 

病院支援と広域医療搬送

被災地域では、医療機関も被災しており、通常の業務ができないことが少なくありません。勤務している職員も被災者であることが多く、家に帰ることができず、次から次へと搬送されてくるけが人や入院患者のケアにあたっています。

被災地域の医療機関内の支援も、DMAT看護師の仕事です。具体的には、病院の復旧や診療の支援、調整の業務を行います。

 

また、緊急で治療を要する患者は、被災地の外の医療機関への搬送を行うことがあります。これを「広域医療搬送」といいます。

広域医療搬送によって、機能の整った医療機関で平常時と同じレベルの医療を行うことで、命を救える可能性が高くなるのです。さらに、被災地域の医療機関への負担を軽くすることができます。

 

災害支援ナースとの違い

災害現場で活躍する看護師は、DMATだけではありません。

災害支援ナースという資格をご存じでしょうか。

災害支援ナースとは「被災地等に派遣され、地域住民の健康維持・確保に必要な看護を提供するとともに、看護職員の心身の負担を軽減し支えることを行う看護職員のこと」をいいます。災害発生の48時間以内に派遣されるDMATとは異なり、災害支援ナースは、災害が発生してから活動場所や派遣のスケジュール調整が行われます。DMATの後を追うように、災害発生から3日後〜1か月を目途に派遣され、各災害支援ナースの派遣期間は、移動時間を含めて原則3泊4日です。

DMATが災害現場で活動したり、患者の広域医療搬送を行ったりする一方で、災害支援ナースは、被災した医療機関での医療ケア、避難所での感染症対策や体調を崩した方を医療につなげる調整役を行います。主な活動場所として、医療機関や社会福祉施設・避難所が優先されるのも、災害支援ナースの特徴です。

災害支援ナースになるには、5年以上の実務経験と、各都道府県の看護協会の会員となり「災害支援ナース養成研修」に参加することが必須条件です。研修に参加する場合は、施設単位での申し込みとなります。しかし、指定の医療機関への勤務は必要はありません。訪問看護ステーションや診療所などに勤務する看護師や、現在看護師として勤務していない、いわゆる潜在看護師とよばれる状態でも条件を満たしていれば、災害支援ナースになれます。

 

DMAT看護師に求められるスキル

災害看護に憧れていても、DMAT看護師になるためにはどんなスキルが必要なのかを知らない方は少なくないはずです。

DMAT看護師に必要なスキルは、災害時のみに培われるものだけではありません。日常の業務での経験が生かされることもあります。

では、ご自身に当てはまるものがあるか、実際に確認してみましょう。

 

正確な判断力と看護スキル

被災地では情報が錯綜し、被災者自体も混乱しています。医療機関自体も被災しており、使用できる医療機器や医療物資が限られることが多いです。

そのような状況の中でも、DMAT看護師は正確かつ冷静な判断力が求められます。

 

災害現場では予想だにしない出来事もおこりえます。マニュアルそのものが通用しないこともあるでしょう。DMAT看護師には、状況に応じて臨機応変な対応を瞬時に判断する能力が不可欠なのです。

 

豊富な看護スキルも必要になります。

災害現場ではその場で応急処置をしたり、救命処置を行ったりすることもあります。医療物資が少ない中で無駄づかいを最小限に抑え、先を見通した対応を行う必要があるのです。

また、実際の現場では、医療スタッフの人数が限られています。「できない・わからない」は通用しません。平常時から多くの症例やケアに関わり、的確なアセスメント能力と高い看護スキルを習得しておくことが大切です。被災者に対する言葉かけなど、精神看護のスキルも必要になります。

 

なお、DMAT看護師の受講要件は「20歳以上65歳未満」とされています。ご自身の体力と経験・スキルを吟味して、応募を検討しましょう。

 

チームワークと向上心

DMATは少ない人数構成でチームを組み、災害現場では基本チームで動きます。被災地には、派遣先の医療機関のスタッフや他の地域から来たDMATチームもおり、協同して業務にあたります。職種の壁を越えた綿密なコミュニケーションとチームワークがなければ、適切な医療ケアは発揮されません。周りの状況を把握し、メンバーを信頼しながら自分の役割に責任をもって業務を行う能力が求められます。

 

また、DMAT看護師は、急性期医療はもちろんのこと、幅広い医療知識とスキルが要求されます。そのため、DMATチームに所属する看護師は、平常時でも救急救命センターや集中治療室などの急性期の部署で勤務し、知識や技術を磨いていることが多いです。現状に満足せず、自身のスキルアップを目指している方は、DMAT看護師に向いていると言えるでしょう。

 

DMAT看護師になるには

では、DMAT看護師になるためにはどうしたらいいでしょうか。

ここでは、そのステップについて解説します。必要な経験や研修、指定病院での勤務について詳しく説明しますので、ぜひ参考にしてください。

 

指定病院での勤務

DMAT看護師になるには、まずDMAT指定病院での勤務が必要です。

静岡県内では、23か所の医療機関がDMAT指定病院の認可を受けています。

いくつかご紹介しましょう。

西部:浜松医療センター・磐田市立総合病院・浜松医科大学医学部附属病院・掛川市・袋井市病院企業団立中東遠総合医療センター

中部:静岡県立総合病院・焼津市立総合病院・藤枝市立総合病院

東部:富士宮市立病院・国際医療福祉大学熱海病院

 

日本DMAT隊員養成研修

次に、日本DMAT隊員養成研修を受講する必要があります。

この研修は、4日間にわたって行われる通常研修と、都道府県のDMAT研修などを修了した者が2. 5日間で受講する広域災害対応研修に分かれています。

看護師の受講の必須条件、及び望ましい条件として、以下のものがあげられていますので、確認しておきましょう。

必須条件

  • DMAT指定医療機関に所属していること
  • 受講希望者本人が、医療法上の「災害・感染症医療業務従事者」としての登録に同意していること
  • 20 歳以上 65歳未満であること
  • 応募職種としての実務経験を 2 年以上(初期臨床研修期間を含む)有すること
  • DMATとして、災害時に被災地での対応に従事する意思があること

望ましい条件(看護師)

  • ACLS、ICLS等の蘇生治療についての基礎学習コースの履修歴があること
  • JNTEC、JPTEC等の外傷診療についての基礎学習コースの履修歴があること
  • MCLS、MIMMS等の多数傷病者への対応についての基礎学習コースの履修歴があること
  • 看護師として医療機関等で5年以上の実務経験があること

厚生労働省>令和6年災害派遣医療チーム(DMAT)研修 厚生労働省枠新規募集について

これらの条件に当てはまるだけでなく、医療機関などからの推薦がないと研修の受講ができません。病院によっては希望者が多く、条件を満たしていても受講できないこともあり得るのです。

 

また、DMAT看護師の登録を受けたあとも5年ごとの更新が必要になります。

更新の条件として、資格の有効期間中にDMAT技能維持研修に2回以上参加しなければなりません。DMAT看護師になったあかつきには、忘れないようにしましょう。

 

DMAT看護師の報酬

DMAT看護師の報酬について説明します。

DMATとして派遣された場合の費用(災害派遣時の日当、超過勤務手当、旅費など)は、被災した都道府県より支払われます。

 

しかし、新興感染症の発生および流行時のDMATの派遣については一部異なります。報酬を都道府県が支払う部分は変わりありませんが、この費用については国の補助を受けられることになっているのです。

 

まとめ

DMAT看護師は、急性期医療や救急医療のプロフェッショナルとして、被災地で活動します。少人数のチームでコミュニケーションや連携を取りながら、被災した医療機関や災害現場に必要な医療を提供するのが任務です。

 

DMAT看護師になるには、指定された医療機関での勤務や研修への参加で、多様なスキルの習得が求められます。現在看護師として勤務をしていない、もしくは指定の医療機関以外で働いており、DMAT看護師になりたい場合は、転職を念頭に置く必要があります。また、日々の業務や訓練を通して自己研鑽を欠かさず、危険な場面でも冷静に対応する精神力も、DMAT看護師には要求されます。

 

日本は「災害大国」とも呼ばれ、いつ何時どんな災害がおこるかわかりません。DMATの出動要請の場面は突発的に訪れます。DMAT看護師は過酷な仕事ですが、災害現場において欠かせない存在です。責任感が強く、志を高く維持でき、急性期や救急の分野に興味があれば、「DMAT看護師」を将来のキャリア選択の1つに入れてみてもいいでしょう。

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