この記事では、口腔ケアの重要性から、正しい口腔ケアの手順まで紹介しています。
10の項目を順番に確認することで、口腔ケアについて正しく理解することができます。
紹介する内容を参考にしながら、口腔ケアの知識を深めてみましょう。
看護現場における口腔ケアの重要性
口腔ケアとは、口の中を清潔に保つお手入れだけの意味ではありません。
お手入れを通して口の中や歯にトラブルがないかチェックし、口腔機能を適切に保つ訓練をすることもあります。
また、口腔内が健康に保たれていると、食べ物を噛む・飲む動作を正常に保つことが可能となり、患者さんは適切な栄養を補給できるでしょう。
口の中が清潔になれば誤嚥性肺炎の予防にもなるため、全身の健康管理としても口腔ケアは重要です。
口腔ケアの正しい看護手順
看護師が口腔ケアをするときには、適切な手順があります。
1~10までの手順に従ってケアを進めていくようにしましょう。
次の項目から具体的にどのようなケアや管理が必要なのか解説していきます。
口腔ケアの正しい看護手順①アセスメント・再確認
口腔内アセスメントとは、口の中を観察することです。
患者さんごとに状態が異なっているため、まずは口の中がどのような状態なのか再確認する必要があります。
アセスメントで確認したいのは、以下の項目です。
- 記録を確認し課題や目標を把握する
- 動いている歯がないか確認する
- 発熱リスクがないか確認する
具体的には、口の汚れや乾燥はないか、歯の欠けや動きはないか、誤嚥や気道感染のリスクがないかです。
口腔ケアの正しい看護手順②用具の選択・準備
続いて、患者さんの状態に合った用具を選択していきます。
用具は口腔内を清潔に保つために必要で、ガーゼ・コップ・粘膜ブラシ・デンタルフロス・研磨剤などのことです。
基本的に研磨剤は不要で、ガーゼで拭き取るだけでも口腔内を清潔に保つことができます。
研磨剤を使うときは、誤嚥しないよう注意してケア後の回収も忘れないようにしましょう。
患者さんが口をあけるのが難しいときは、ソフトバイトブロックの使用がおすすめです。
ガーゼを筒状に巻いたもので、ガーゼの片方は口の外に長く垂らして使用します。
口腔ケアの正しい看護手順③開始の声かけ
看護師が患者さんの口腔ケアを始める際には、声かけをします。
声かけは、患者さんに口腔ケアを始める心の準備をしてもらう目的と、患者さんの意識レベル改善にもつながります。
患者さんとのコミュニケーションを深めるためにも、まずは声かけをしてください。
患者さんに声かけをするときは、正面から目線を合わせましょう。
口腔ケアの同意が得られた状態でケアを始めると、患者さんの参加を促すことができます。
丁寧な声かけを心掛ければ、患者さんは同意してくれるはずです。
口腔ケアの正しい看護手順④体位の確認
口腔ケアを始める前に、患者さんの体位を整えます。
患者さんが横になった状態だと誤嚥の恐れがあるため、上体は起こすようにします。
ベッドを起こして患者さんが座った状態で口腔内のケアができるようにしましょう。
太ももの裏側と足裏にクッション等を置くと、患者さんは楽な姿勢で座ることができ、足裏で踏ん張れる姿勢になります。
口腔ケアの姿勢で注意したいのは、首が後屈しないようにすることです。
頭が後ろに倒れた状態だと誤嚥性肺炎を招きやすいため、首と頭の後ろに枕などを添えて、頭が後屈にならないようにしてください。
口腔ケアの正しい看護手順⑤口腔観察
口腔ケアの準備ができたら、再び患者さんに声かけをしてリラックスしてもらいます。
いきなり口の中に触れるのではなく、肩や顔などに触れて患者さんの同意を得られてから、口腔内の観察に進んでいきましょう。
患者さんに口をあけてもらったら、以下の問題がないか口腔内をよく観察します。
- 痛みはないか
- 口臭はないか
- 唇は乾燥していないか
- 舌苔が厚くなっていないか
- 虫歯や歯の動きはないか
- 歯茎の腫れや出血はないか
- 歯や義歯に汚れはないか
口腔内の治療が必要なときは、歯科専門職に相談してください。
口腔ケアの正しい看護手順⑥口腔清掃
口腔内の状態を確認したら、いよいよ清掃作業に入っていきます。
まずは、口の周りや中が乾燥していないかよく観察してください。
乾燥した状態で無理に清掃しようとすると出血の原因となるため、ガーゼを湿らせてよく絞ったもので潤してから清掃をしていきます。
唇が乾燥しているときは、湿らせたガーゼを当てて十分潤わせます。
口の中が乾燥しているときも同じように、湿らせたガーゼを使ってください。
汚れの上にガーゼを当てて十分潤ったら、汚れの混ざった唾液をガーゼで吸い取り口腔外に出すようにしながら清掃していきます。
粘膜ブラシを使うときは、出血をさせず汚れを残さないよう注意します。
奥から手前に向かって動かすのが基本で、汚れを塊にまとめながらブラシで絡めとりましょう。
厚くなった舌苔も粘膜ブラシで除去しますが、無理せず日を改めても問題ありません。
舌を動かせる患者さんには、舌上にガーゼを当てて、舌を前後に動かしてもらう清掃もおすすめです。
機能訓練にもなるため一石二鳥です。
義歯をつけている患者さんは、義歯を外して清掃します。
かならず毎回外して清掃するようにして、バネ等の細かい部分の汚れも見逃さないようにしてください。
口腔ケアの正しい看護手順⑦汚れの回収
清掃が終わったら、最後に汚れを回収します。
吐き出しできる患者さんはうがいをしてもらいますが、うがいができない患者さんでも粘膜ブラシや歯ブラシに付着した汚れを拭き取ることで汚れの回収は可能です。
1か所磨き終えたらブラシをよく洗って、汚れを回収するようにします。
コップの水が汚れなくなるまで繰り返してください。
磨き終えたら、最後に口の中に汚れがないか観察します。
舌・歯の細かい部分まで確認して、汚れが落ちているかチェックしてください。
口腔ケアの正しい看護手順⑧口腔機能訓練
歯を磨き終えたら、口腔機能訓練をしていきます。
または、緊張をほぐすために、清掃する前に訓練をすることもあります。
口腔訓練は、以下のようなマッサージやストレッチ方法です。
- 頬筋マッサージ
- 頬筋ストレッチ
- 口輪筋ストレッチ
- 口角の引き上げ
- 舌のストレッチ
頬の筋肉が固まっているときは、指で頬全体をもみほぐします。
口の内側からは指や歯ブラシを使って頬筋を伸ばしていきましょう。
口の周りの筋肉が硬くなっているときは指を使って外側と内側から伸ばしていきます。
ガーゼで舌をつかんで前後左右に伸ばす訓練もしましょう。
口腔ケアの正しい看護手順⑨後片付け・確認
清掃や機能訓練を終えたら、道具を片付けていきます。
使用した道具はすべて回収して、置き忘れのないようにしてください。
歯ブラシ・コップ・研磨剤などを置き忘れると、事故や感染に繋がるかもしれません。
ガーゼ・バイトブロック・水の置き忘れにも注意して、廃棄するようにします。
道具を片付けながら、患者さんの体位をもとに戻します。
口腔ケアをすると唾液の分泌が促され誤嚥しやすくなる場合は、しばらくの間は様子を見てください。
片付け中は、患者さんに声かけをして表情を読み取りましょう。
疲れていないか、何か違和感がある表情はしていないか確認します。
痛みや臭いなどの問題が出ていないか、全身状態は安定しているかも確認してください。
口腔ケアの正しい看護手順⑩記録・評価
すべての工程が完了したら、口腔ケアの記録や評価をします。
問題があった箇所を記録に残すことで、目標達成状況が把握しやすくなります。
PDCAサイクルを回すことが可能となり、現状や改善が必要な箇所の把握から、どのように改善されているのか評価もしやすくなるでしょう。
口腔ケアの記録では、必要に応じて以下の内容に注意してください。
- 誤嚥や出血など注意点はないか
- 歯科専門職との連携は必要か
- 痛みや口臭などはないか
- 今後の課題は何か
- 目標は達成したのか
次回確認が必要な項目があれば、記録しておきましょう。
確実な口腔ケアができないときは無理に行うのではなく、次回以降に持ち越すこともできます。
また、患者さんが協力的なのかも記録しておくと、別の人がケアする際の参考になります。
口腔ケアの注意点
口腔ケアは患者さんの健康を守るうえで重要ですが、適切に行わなければ感染や誤嚥、患者さんの不快感などのトラブルを引き起こす可能性があります。また、患者さんが拒否するケースなどへの対応も求められます。ここでは、注意すべきポイントを詳しく解説します。
感染予防のための対策
無菌操作の徹底
口腔ケアでは、患者さんの口腔内に細菌が侵入するリスクがあるため、無菌操作が重要です。手洗いや手袋、マスクの着用を徹底し、器具は清潔な状態を保つよう管理します。また、患者さんごとに専用の器具を使い分けることで、交差感染を防ぎます。
器具の適切な管理
使用した器具は丁寧に洗浄・消毒し、清潔な場所で保管します。特にスポンジブラシや保湿ジェルなどの器具は、患者さんが安全に使用できるよう、徹底した管理が必要です。
誤嚥リスクを防ぐ方法
正しい体位保持とケアの進め方
患者さんの誤嚥リスクを減らすために、体位を調整することが大切です。患者さんが可能であれば座位、または半座位を保ちながらケアを行い、唾液や洗浄液が喉に流れ込まないよう配慮します。吸引器を近くに準備し、必要に応じてすぐに対応できる体制を整えましょう。
嚥下障害患者さんへの特別な配慮
嚥下障害を持つ患者さんでは、口腔内に残った唾液や液体が誤嚥の原因となる可能性があります。ケアを小分けに進め、必要に応じて医師やリハビリスタッフと連携しながら行います。
患者さんの状態に応じた対応
体調不良時のケア方法
体調が悪い患者さんに対しては、通常の口腔ケアが難しい場合があります。この場合、患者さんの負担を軽減するために短時間で済む方法を選びます。たとえば、スポンジブラシで優しく拭き取るだけでも十分に感染リスクを減らすことができます。
個別ケアを行う重要性
患者さんの健康状態や病状に応じたケアを提供することが大切です。寝たきりの患者さんには体位変換を工夫する、嚥下障害がある場合は安全な方法でケアを実施する、など行いましょう。また、患者さんが口腔ケアを嫌がる場合、その理由を探り、過去の嫌な経験や痛みなどに配慮することが求められます。
患者さんの協力を得るための工夫
口腔ケアに対して拒否反応を示す患者さんには、無理にケアを進めないことが重要です。口腔ケア後には「気持ちよくなりましたね」「さっぱりしましたね」といったポジティブな声かけを行い、患者さんが前向きな気持ちを持てるよう配慮します。
また、乾燥がひどい場合でも安易に保湿剤を使うのではなく、湿らせたガーゼで潤わせたり、唾液の分泌を促すマッサージやストレッチを活用します。保湿剤は乾燥すると固まりやすいため、使用する際には十分注意しましょう。
チームでの連携と専門家への相談
口腔ケアが困難な場合、一人で抱え込むのではなく、チームで相談することが大切です。病棟内のスタッフや外部の歯科専門職、リハビリ専門職と連携して、最適なケア方法を考えます。また、口腔内に出血がある場合や治療が必要な場合は、主治医や歯科専門職に早めに相談することがおすすめです。
患者さんが安心して快適に過ごせるよう、看護師には適切な方法と丁寧な配慮が求められます。感染予防や誤嚥防止を心がけつつ、患者さんが協力しやすい工夫を取り入れ、チーム全体で最良のケアを実践していきましょう。
まとめ:看護師として正しい口腔ケアの知識を
口の中のケアといえば歯科専門職の仕事だと考えてしまうかもしれません。
しかし、口腔内の健康管理は全身にも影響するため、看護師も適切な口腔ケアのやり方を確認するようにしてください。
口の中は普段の生活では見えにくい箇所ですが、食べて飲み込むための重要な部分で、感染症を防ぐためにも適切なケアが必要となります。
看護師として患者さんと関わるなら、紹介した口腔ケアの知識を深めておきましょう。
患者さんが食事を楽しめるよう、基礎知識として口腔ケアを身につけておきたいものです。