看護職には「正看護師」と「准看護師」の2種類の資格があります。同じ看護職ですが、資格の取得方法や、日々の仕事内容、年収、そしてキャリアアップの選択肢に違いがあるため、どちらを目指すかで働き方が大きく変わります。
この記事では、これから看護職を目指す方や、准看護師から正看護師へのステップアップを考えている方へ、それぞれの資格の特徴やメリット・デメリットを詳しく解説します。自分に合った働き方を見つけ、理想のキャリアを築くための参考に読み進めてください。
Contents
正看護師と准看護師の違い
医療現場で重要な役割を担っている正看護師と准看護師の違いについてまとめます。
まずはじめに、資格の取得方法です。
正看護師の資格は、厚生労働大臣が発行する国家資格であり、国家試験に合格する必要があります。
一方で、准看護師は、都道府県知事が発行する資格であるため、地方試験に合格すれば取得できます。
次に、仕事内容の違いです。保助看法では、以下のように定義されています。
保健師助産師看護師法 第五条
この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。
保健師助産師看護師法 第六条
この法律において「准看護師」とは、都道府県知事の免許を受けて、医師、歯科医師又は看護師の指示を受けて、前条に規定することを行うことを業とする者をいう。
この定義の違いは、准看護師が自己判断で患者の治療や診断を行うことができないことを意味し、正看護師と准看護師の大きな差です。両者ともに療養上の世話・診療の補助を行いますが、准看護師には「医師、歯科医師又は看護師の指示を受けて」という文章が追加されています。
そのため准看護師は医師、歯科医師、看護師の指示がなければ、必要な業務ができないのです。
そして、年収やキャリアの違いです。
正看護師は、一般的に准看護師と比較して給与が高く、管理職への昇進や専門看護師・認定看護師などのキャリアアップの機会があります。
一方で、准看護師は昇進やキャリア形成の機会が限られているため、年収は正看護師より低いのが現状です。しかし、短期間で資格取得が可能なことや現場での実務経験が比較的早い時期から開始できるため給与を得ながら学べるメリットがあります。
このように、正看護師と准看護師は、同じ看護職でありながらも資格や仕事内容、年収、キャリアに異なる特性があるため、自分に合った資格を選択することが大切です。
正看護師とは
正看護師は、厚生労働大臣が発行する国家資格を持つ看護師です。
医師の指示のもと行う医療行為の中には、点滴や注射の投与、薬の管理、患者の状態観察、手術の介助などがあげられます。その他にも患者の健康管理や治療計画の立案、リハビリテーションの指導、家族への説明など、患者の生活全般にわたるケアや、不安や悩みを丁寧に聞き取り、寄り添う心のケアも求められます。
また、看護職内でのリーダーシップの発揮やチーム医療の推進への貢献が求められたり、看護管理者や専門看護師、認定看護師など幅広いキャリアアップの選択肢が得られたりするメリットがあります。
正看護師の免許取得方法と資格取得までの流れ
正看護師の免許取得には、以下のステップを踏む必要があります。
- 看護系の学校に進学(看護専門学校3年または大学4年)
- 必要な単位を取得し、実習を修了
- 看護師国家試験を受験し、合格する
- 厚生労働大臣から正看護師免許を取得し登録する
この過程を経て、正式な正看護師として働くことができます。専門学校や大学では、基礎医学や看護学、看護技術の他、臨床実習を通じて実践的な知識や技術を習得します。
正看護師の免許の発行は”厚生労働省”
正看護師の免許の取得には、国家試験に合格することが必須となり、医療従事者としての高い専門性と社会的な信頼性が証明されます。
国家試験に合格すると厚生労働省に登録され、全国の医療機関や地域介護系サービス、企業の健康管理部門などで「正看護師」として働くことができるようになります。さらに、海外の医療機関でも活躍できる道が開かれています。
准看護師とは
准看護師は、医師や正看護師の指示のもとで、看護ケアや医療行為を行います。
准看護師の資格は、正看護師と比較すると短期間で取得でき、実務経験を早く積めることが大きなメリットです。
しかしながら、准看護師は、法律や制度上の制約によって独立性や責任範囲において正看護師より制限があります。つまり、看護職やそのほかチームスタッフへの指示連携は行えません。そのため、日常的な患者ケアの実務内容は正看護師とほぼ共通しながらも、療養や退院計画の立案、管理業務や指示連携の業務は正看護師が担います。
管理職や専門職といったキャリアアップを目指す際には、正看護師資格が求められるため、准看護師から正看護師へのキャリアアップが必要です。
准看護師の免許取得方法と資格取得までの流れ
准看護師の免許取得には、以下のステップになります。
- 准看護師養成所または衛生看護科(1〜2年)を修了
- 地方試験(都道府県ごと)を受験し、合格する
- 都道府県知事から准看護師免許を取得する
准看護師は、都道府県ごとの資格のため、働く地域が限定される場合があります。しかし、実務経験を積んだ後、2年課程の看護学校を修了すれば、正看護師へとステップアップが可能です。
免許の発行は”都道府県”
准看護師の免許は、国家資格である正看護師とは異なり、各都道府県の知事が発行する資格です。
准看護師は、地域ごとの試験を受けて資格を取得するため、試験内容や免許の発行手続きは、各都道府県が管理します。そのため、准看護師は、地域医療に貢献する役割を担ったり、地域密着型の医療機関で活躍したりする機会が多いです。
正看護師と比べると全国的な活躍の場や専門性の高い医療現場への進出機会には制限があるでしょう。准看護師がより多くのキャリアチャンスを得たい場合には、正看護師の資格取得を視野に入れると良いでしょう。
正看護師と准看護師の働き方の違い
正看護師と准看護師の働き方や仕事内容の実際は、多くの場合、共通しています。
たとえば、血圧や体温の測定、点滴の準備や投与、食事や排泄の介助など、患者や利用者の生活を支える様々なケアを行います。
しかし、同じ仕事内容であっても、准看護師は医師や看護師の指示がなければ、自己判断で行うことができません。患者から何か頼まれた場合でも、すぐに対応するのではなく、医師や看護師に相談し、指示を受けてから行動します。
資格規定に応じた安全を守るための役割の違いですが、迅速な対応が求められる場合がある医療現場では、准看護師にとって働きづらさを感じることもあるかもしれません。
また、正看護師は、病棟の管理業務やチームのリーダーとしての役割を担います。准看護師は、他の看護職やチームスタッフに指示を出すことができないため、患者の療養計画の立案や病状に応じた緊急時の対応策、看護チームのリーダーシップ、病棟の管理業務や医療スタッフ間の連携を調整する役割も正看護師になります。
正看護師と准看護師の実習内容の違い
正看護師と准看護師の実習には内容に違いがあります。
正看護師は国家資格を取得するため、理論と実践を深く学ぶ教育課程を経て国家試験合格を目指します。大学または専門学校での3〜4年にわたる教育で、基礎医学、病態生理学、看護学、臨床看護技術など幅広い知識と技能を習得します。実習には、病棟での患者ケア、診療の補助、緊急時対応、診療科などの専門実習などが含まれ、多岐にわたる経験を積みます。
一方、准看護師は、教育機関で約2年間の実習を経て資格を取得します。この期間に学ぶのは、主に看護の基礎となる知識や技術で、医療機関での実習では基礎的な介助業務や看護業務の補助に重点が置かれます。実習は主に地域の医療施設で行われ、患者の日常ケアのサポートに従事します。
正看護師の実習が包括的で、さまざまな診療科を経験するのに対して、准看護師の実習は実践的スキルに特化している傾向が見られます。正看護師は卒業後すぐに広範囲の業務に対応できる能力を備え、准看護師は早期に現場に馴染む実務能力を得るのが特徴です。
正看護師と准看護師の待遇の差
つづいて、正看護師と准看護師では待遇の差についてお話しましょう。
正看護師は国家資格であるため、待遇面で優遇されることが多く、給与水準も准看護師と比較して高いのが一般的です。正看護師は、多くの医療機関で、責任あるポジションを任されることも多く、キャリアアップの機会は豊富です。管理職への昇進や専門分野でのキャリア形成も積極的に推奨されており、それに伴う給与の増加も期待できます。さらに、福利厚生や雇用条件も充実していることが多く、安心して長く働ける環境が整っているといえます。
准看護師は、地方資格であるため、給与水準は、正看護師に比べて低い場合が多いです。昇進やキャリアアップのチャンスも限られていることが多く、管理職に就くためには正看護師への資格変更が必要な場合があります。しかし、短期間での資格取得や早期から現場での実務に従事できるメリットがあり、経済的な負担が少ないところや家庭や勉学と両立がしやすい勤務形態を選びやすいといえます。
正看護師と准看護師には待遇面での差がありますが、どちらも医療現場で重要な役割を果たしており、それぞれの働き方に応じたメリットがあります。
正看護師と准看護師の勤務先
正看護師と准看護師の勤務先には共通するところもありますが、求められる役割や可能な業務、キャリアの選択肢に差があるのも現状です。
正看護師は、全国の多くの病院、診療所、訪問看護まで広範囲にわたる勤務先で活躍しています。急性期病院や大学病院などでも積極的に採用され、緊急対応や高度な専門医療技術を要する部署にも配属されます。病棟での管理業務や教育指導の役割も求められ、幅広くキャリア形成が可能です。
一方で、准看護師も、正看護師と同じ病院や診療所を中心に、介護福祉施設や訪問看護ステーションなどさまざまな場所で活躍しています。しかしながら、地方で管轄される資格であるため登録地域の医療機関での就職が多く、継続して地元で働く人が少なくありません。そのため長年同施設で活躍したり、管理や指示系統の業務には携わらない患者の生活に寄り添ったケアが求められる環境で活躍したりしています。
正看護師と准看護師はそれぞれの職種が持つ特性やメリットで、勤務先や役割の違いに応じたキャリア形成ができます。
図解:正看護師と准看護師の違いを比較
准看護師から正看護師になるには
この記事では正看護師と准看護師の違いを、仕事内容、年収、資格取得方法に重点を置いて詳しく解説しました。
正看護師と准看護師は、それぞれ異なる特徴を持つ職業です。どちらの資格を選ぶかは、将来のビジョンや人生観によって大きく変わるため、それぞれの資格の特性を理解した上で選択することが重要です。
准看護師から正看護師になるには、まず2年以上の実務経験を積み、その後、2年課程の看護学校(進学コース)に進学する必要があります。
このコースを修了すると、看護師国家試験を受験する資格を得ることができます。このプロセスは、准看護師として働きながら学び続けられるため、経済的負担を軽減できるというメリットがあります。また、すでに医療現場での経験があるため、実習や学習内容への理解もより深まりやすいです。しかし、多くの進学コースでは「実務経験2年以上」が入学条件となっているため、計画的にキャリアを築くことが重要となります。
この記事が、看護職を目指す皆様の最適なキャリア選択の一助となれば幸いです。
監修者プロフィール
東海林 さおり(看護師) 株式会社アクタガワ 看護師スーパーバイザー

看護師資格修得後、病棟勤務・透析クリニック・精神科で『患者さん一人ひとりに寄り添う看護』の実践を心掛けてきた。また看護師長の経験を活かし現在はナーススーパーバイザーとして看護師からの相談や調整などの看護管理に取り組んでいる。
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