この記事では訪問看護における多職種連携の必要性について解説します。
<この記事で解説する内容>
- 訪問看護において連携がなぜ重要なのか
- 多職種それぞれの役割や関わり方について
- 訪問看護の今後について
- 現段階での取り組みなど、事例
Contents
多職種連携の必要性
利用者が快適に適した医療を受けるためには、さまざまな治療やケア、サービスの利用が必要です。
そのためには多職種が関わり、連携してケアを提供する必要があります。
病院をはじめとする医療機関においても多職種連携は必要ですが、在宅でのケアではさらに重要な意味を持ちます。
多職種連携とはどういったものか、それぞれの役割は何かについて理解をしておくことが必要です。
病院での治療が終わった後、在宅でのケアを希望するケースは多いものです。
高齢の方では尚のこと、住み慣れた自宅で最期を迎えたいと望むことも少なくありません。
その際に求められるのが、高度で専門的な医療・看護、介護やサービスです。
しかし、質の高い医療や看護を提供するには、それぞれの分野における専門性や経験が必要です。
病気を治すのが医師の役割であるように、看護師には看護師の、介護職には介護職の役割があります。
それぞれの役割を果たすには、各職種が高い専門知識と技術、経験を活かすことが重要です。
さらにお互いの役割を認識し、連携において補完し合うことで利用者に適した医療を提供できるのです。
ここでは訪問看護におけるそれぞれの職種の役割や、連携の重要性について解説します。
多職種連携において訪問看護の連携候補
在宅医療において求められるのが、地域包括ケアシステムです。
地域における包括ケアシステムを実践するには、医師や看護師、ケアマネージャー、訪問介護員、薬剤師、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といった多職種の関わりが必要です。
地域包括ケアシステムにおけるそれぞれの連携候補と役割について解説します。
訪問看護の多職種連携①医師
診療を行い、訪問看護において訪問看護に関わる職種に指示を出すのは医師です。
訪問看護師の記録をチェックし、必要なケアについての指示を出したり、訪問して診察・健康管理を行ったりします。
1週間~2週間に1回自宅に訪問し、本人や家族と相談をしながらどのような療養をするのか計画を立てます。
状況に応じて定期的に訪問するのが、不定期で訪問する往診とは異なる点です。
在宅医療においては、経済面も含め本人や家族の意思を尊重した療養計画を立てます。
入院や治療などが必要な場合は、適切な医療機関を紹介するのも医師の役割です。
糖尿病や高血圧など慢性疾患の治療や看取りを行うこともあります。
多職種それぞれに療養に関する指示を出す医師は、訪問看護における中核的存在と言えるでしょう。
訪問看護の多職種連携②看護師
医師が作成した訪問看護指示書をもとに、注射や点滴といった医療処置、健康状態のチェックや身体介護などを行います。
利用者や家族の相談にのったり、アドバイスをしたりすることもあります。
設備の整った病院とは異なり、現場でケアをしなければならない訪問看護師は、経験年数を問われることも少なくありません。
しかし現在では、新人看護師でも希望があれば訪問看護師として働くことができます。
看護師としてのスキルや経験も重要ですが、訪問看護師は医師やケアマネージャー、訪問介護員、薬剤師やリハビリスタッフなど多職種とコミュニケーションを取りながら利用者を支えていくことが不可欠です。
また、患者さんを在宅医療に送り出す病棟看護師も訪問看護の多職種連携において大切な役割を担います。
患者さんの情報を細かく提供し、在宅での医療・看護をよりスムーズに行えるよう準備をするのが、病棟看護師の役割です。
訪問看護の多職種連携③ケアマネージャー
介護保険のエキスパートであるケアマネージャーは、利用者が適したサービスが受けられるよう、ケアプランを作成します。
医師や看護師から利用者の情報を確認したうえでアセスメントをし、利用者の要望や背景、経済面や家族構成などさまざまなことを踏まえ、適切なケアプランを作成しなければなりません。
介護保険の申請や利用方法、介護保険に関するさまざまな情報を利用者に伝えたり、相談にのったりするほか、利用者とサービスを提供する事業者とをつなぐ役割も担います。
ケアプランは最初に作成して終わり、というわけではありません。
ケアプラン通りにきちんとサービスが提供されているかどうか、チェックをするのもケアマネージャーの役割です。
在宅医療にかかわる多職種や利用者、家族などと話し合い、ケアプランが適切かどうかを確認し、必要であれば修正・変更をしていきます。
訪問看護の多職種連携④訪問介護員
訪問介護員(ヘルパー)の仕事は、利用者の日常生活をサポートすることです。
看護師のように、医療的なケアは行いません。
ただし、一定の研修を受けた介護職員など条件をクリアしている場合に限り、たんの吸引と(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)、経管栄養(胃ろうや腸ろう、経鼻)については、実施可能です。
喀痰と胃ろうからの経管栄養は頻度の高いケアです。
しっかり研修を受け、細心の注意を払いながら行う必要があります。
このようなケアを行うこともありますが、基本的にはケアプランに沿って生活支援を行います。
食事や入浴、排せつなどの身体介護、買い物や食事の準備、掃除や洗濯などを行いながら、利用者の自立した生活をサポートするのが仕事です。
利用者のケアをするだけでなく、利用者本人や家族からの介護や生活における相談を受けたり、アドバイスを行ったりするのも仕事の一つ。
状況を把握し、利用者や家族の様子や声などから、どのようなサービスやケアを必要としているかを理解するスキルも求められます。
訪問看護の多職種連携⑤薬剤師
多職種連携において薬剤師は欠かせない存在です。
薬剤師は医師が作成した処方箋に従い、薬の調合を行い利用者に処方します。
処方するだけでなく、服用方法や保管方法などを利用者や家族に指導します。
薬を飲み込むのが困難な場合は飲みやすくしたり、服薬カレンダーなどを用意したり、利用者が服薬しやすい工夫をするのも薬剤師の仕事です。
在宅では飲み忘れ、過剰服用、間違った薬の管理、飲み合わせのトラブルなど、服薬に関する問題が生じることも少なくありません。
そのようなトラブルなどが起こらないよう、きちんと指導すると同時に訪問看護師やケアマネージャーへの服薬指導やアドバイスも行います。
また、副作用などをチェックし、医師に提案するのも薬剤師の役割です。
訪問看護の多職種連携⑥理学療法士・作業療法士・言語聴覚士
病院から自宅に戻った後、身体的機能を維持・向上させるには、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といったリハビリの専門職のサポートが必要です。
理学療法士は「立つ」「座る」「歩く」などの基本的な動きを、作業療法士は「食べる」「着替える」「入浴する」など日常生活に必要な動きを、言語聴覚士は「飲み込む」「話す」「聞く」などの機能訓練、指導を行います。
リハビリスタッフは利用者の情報を共有し、病状や体調などを確認しリハビリをする際に役立てます。
また、リハビリスタッフから提供される情報によって、多職種がケアをする際に機能回復の手助けになる取り組みができるようになります。
訪問看護の多職種連携⑦ソーシャルワーカー
医療、介護、福祉における相談窓口となるのが、ソーシャルワーカーです。
「地域医療連携室」などに在籍し、利用者や家族の経済的なことや心理的なこと、社会的な問題といった医療や介護、福祉に関する相談を受け付けます。
利用者や家族の相談事を理解し、訪問看護師やケアマネージャーなど多職種との橋渡しをしながら、入院時や退院後のサポートをします。
病状がよく理解できない、入院せずに在宅で医療を受けたい、介護に疲れたなど、さまざまな悩みを多職種と連携し、解決・調整するのがソーシャルワーカーの役割です。
訪問看護アクションプラン2025 多職種連携のポイント
訪問看護アクションプラン2025とは、日本看護協会、日本訪問看護財団、全国訪問看護事業協会の3つの団体による『訪問看護10ヵ年戦略』を再編したものです。
持続可能な医療・介護において重要な在宅ケアの基盤づくりが求められている中、必要なサービスの需要に対し、必要なサービスを供給できる体制を作ることを目指します。
求められていることの一つが、在宅療養者の重度化・多様化・複雑化への対応です。
高度な医療ニーズを求める利用者や精神障がいや認知症の利用者、老老介護や一人暮らしの高齢者などさまざまな利用者に対応するには、包括的な医療・看護を提供できるスタッフの数を増やし、事業所の規模も大きくする必要があります。
そのためには、訪問看護の量的・機能の拡大、質の向上、地域包括ケアへの対応を要としてプランを実践していくことが大切です。
24時間365日訪問看護サービスの提供が可能になるよう、全国どこでも必要なときに訪問看護を利用できる体制の整備と訪問看護師の安定的な確保と育成をしていくのがその一つ。
ICTを活用し、多機関・多職種との情報共有の効率化や業務の効率化を進めること、自宅への訪問だけでなく、介護施設や学校・作業所など生活の場への訪問を可能にすることも目指すことの一つです。
在宅ケアに従事する認定看護師や専門看護師といった専門家の配置や育成、さらに、訪問看護を周知してもらうため、地域の会議などに参加したり、訪問看護の立場から政策を提言したり、地域住民との連携を積極的に取っていくことを目指します。
訪問看護の多職種連携の事例
訪問看護における取り組みはさまざまな地域で行われています。
訪問看護の多職種連携の事例を紹介します。
・世田谷区の事例
世田谷区では連携体制をつくるため、連携会などを運営し顔の見える関係づくりをしています。
ケアマネタイムや医療と介護の連携シートにて、情報の共有化を実践。
医療関係者やケアマネージャーなどで構成された、世田谷区医療連携推進協議会を中心に実施しています。
・千葉県柏市の事例
行政が中心となり医師会などと連携しています。
医療・看護・介護の関係団体が会議を開催し、多職種連携ルールなどを構築しています。
また、多職種連携の具体的な事例を紹介します。
以下は、89歳の女性とその息子(55歳)の二人暮らしで訪問診療を利用した際の事例です。
・多職種連携の具体的事例
利用者本人は年齢相応の新機能の低下などはあるものの、入浴は自分でできるなど日常生活を行う身体機能は保たれている状態。
しかし、買い物などは息子さんが行っていて、緊急事態などに対する不安もあり訪問診療を希望しました。
訪問診療が始まる前、ソーシャルワーカーが介護保険申請の支援、ケアマネージャー選び、訪問リハビリとの調整を実施。
医師の往診にはソーシャルワーカーが同行し、利用者本人や家族の希望や不安を聞くなど、ほかの家族との関係性などを把握。
3年後には身体機能の低下などがあり、支援体制の見直しの必要があるとの連絡を受けソーシャルワーカーが医師に確認し、家を訪問して今後のことについて相談をしました。
在宅での看取りを希望する利用者と介護をする息子さんの気持ちを汲み、関わっている多職種チームやそのほかの家族とのカンファレンスを行い、今後について検討。
心理面を含めたサポートを続けています。
まとめ:訪問看護と多職種連携
在宅医療は今後ますます増えていくと考えられます。
重度の疾患を持つ利用者や認知症や障がいを抱えた利用者、さらには一人暮らしの高齢者などニーズは多様化・複雑化しています。
訪問看護はやりがいがあり、看護師としてのスキルも発揮できるでしょう。
それぞれの地域においても訪問看護の拡大に取り組み、より働きやすい職場選びの実現もそう遠くはないと考えられます。
訪問看護では多職種が関わり、連携を取りながら利用者に関わっていかなければなりません。
連携の重要性や自分の役割を認識し、多職種とコミュニケーションを取りながらスキルを活かしていくことが大切です。