ひとりの医師が患者のすべてを治療しケアするには限界があるため、医師ひとりに任せず、複数の専門家が関わって患者をケアする「チーム医療」が広がっています。
看護師もチーム医療の一員であり、どのような役割があり、これからどうなっていくかを紹介します。
チーム医療の実例もあわせて紹介するので、働き方をイメージしてみてください。
Contents
チーム医療と看護
チーム医療とは、ひとりの患者に対して複数のメディカルスタッフが連携し、高い使命感を持って治療やケアに取り組むことです。
チーム医療のメンバーは医師・看護師・臨床検査技師・薬剤師など、必要な治療に関わる専門スタッフすべてと、患者本人そしてその家族を含みます。
中でも看護師はあらゆる医療現場での診療と治療から療養支援まで幅広く関わるため、チーム医療のキーパーソンとして期待される立場です。
厚生労働省も看護師の役割を拡大する方針を示しており、今後チーム医療での看護師の重要性は高まるでしょう。
チーム医療における看護師の役割
チーム医療において看護師が果たす役割は、大きく分けて、
・多様な業務にあたるチームの要
・多数の職から成り立つチームの連携を保つ
・ケアに関する専門的な知識
以上の3つです。
この章では役割ごとに解説するので、チーム医療での看護師のするべきことを把握し、参加する機会に備えましょう。
看護師の役割①多様な業務にあたるチームの要
看護師は医師をはじめあらゆる専門家と関わり、治療と診療だけでなく関連のある業務や療養生活のサポートまで幅広く取り組みます。
例えば、医師が医師を診療する前に、血圧の測定や貼ってあるテーピングなどをはがす、診療時には患者の衣服を持ち上げて診察しやすくするなどです。
入院中には患者が療養中にバイタルサイン測定や点滴管理、薬や食事がひとりでとれない患者には内服や食事の介助、入浴やトイレが難しい患者には入浴介助や排泄介助などを行います。
患者と接する時間がチーム内の他の職種よりも多いため、脳血管疾患の後遺症などが原因で言葉を思うように話せない人やコミュニケーションをとりづらい人は、特に観察を行って言語に頼らない情報収集を行います。
そのため、看護師はチーム医療の要であり、患者についてより詳しい立場であることが求められます。
看護師の役割②多数の職から成り立つチームの連携を保つ
看護師の本来の責務に、他の看護師や医療関係者と協働して看護することがあるので、医師の診療補助だけでなく、治療に必要な検査など関係機関と協力します。
もし患者が言葉を発することが難しい場合、患者に代わって検査技師へその旨を伝え、スムーズに検査が進むよう配慮します。
チームは複数の専門職が連携するため、意見の食い違いが生じるときもあります。
異なる意見にもとづく指示があると、看護師は何をするべきかわからなくなってしまいがちですが、専門職の間に立って患者のためになる内容かどうかを考えることが重要です。
自分とは異なる意見・価値観を知り、新たな視点を発見できたととらえて、チームとして患者のための方針になるよう検討・調整しましょう。
看護師の役割③ケアに関する専門的な知識
チーム医療では特に専門性の高い知識が求められ、看護師における特定行為だけでなく、チームの目的に合った専門性が必要です。
例えば、摂食・嚥下チームではリハビリテーション、栄養サポートチームでは栄養学の知識など、目的ごとに異なります。
しかしどのチームに所属しても、看護師は患者とその家族へ寄りそい看護することに変わりはありません。
現在のチーム医療の事例
現在日本で行っているチーム医療の事例の中から3つの例を簡単に紹介します。
緩和ケアチーム
余命宣告を受けている患者で、緩和ケア病棟へ入院中・施設や自宅で療養中の患者が対象です。
がん・エイズ・ALSなど治療がほとんどできない病気に直面する患者とその家族に対し、QOL向上のために早い段階からケアをします。
参加メンバーは、医師・医療ソーシャルワーカー・看護師・管理栄養士・救急救命士・作業療法士・歯科医師・歯科衛生士・診療放射線技師・薬剤師・理学療法士・臨床検査技師・臨床心理士です。
痛みや吐き気、だるさ、呼吸困難などの身体的症状、病気が原因の落ち込みや仕事・家族に対する悩みなどの心理・社会的な問題、死や病気への恐怖や自分の存在意義に関する苦しみなどスピリチュアルな症状の緩和をチームで取り組みます。
看護師は患者の価値観を尊重しつつ、必要なケアを患者本人と家族とともに考えます。そのために、病気と治療法や心身の状態、現在までの経過の把握が必要です。
苦痛症状の緩和や心身・社会的なサポートを行い、日常生活を充実させて患者らしい最期を迎えるための援助をします。
患者だけでなく、家族の悲しみに対するグリーフケアも看護師の仕事です。
褥瘡(じょくそう)管理チーム
寝たきりやそれに近い状態・常に車いすを使っている・日常生活の活動量が少ない・栄養状況が悪いといったそれぞれの患者に対し、褥瘡の予防と早期発見に努めます。
褥瘡は一度生じて悪化すると治りにくく、予防と早期の改善が重要です。
参加するメンバーは、医師・医療ソーシャルワーカー・看護師・管理栄養士・義肢装具士・救急救命士・作業療法士・薬剤師・理学療法士・臨床検査技師です。
看護師は患者の全身の状態を24時間観察・評価し、褥瘡ができやすい患者にはおむつや神具の選び方や保湿、肌に負担のかかりにくい体の動かし方などをアドバイスします。
すでに褥瘡がある患者には、薬や傷を保護するドレッシング剤などを適切に使い、ケアと同時に治癒をめざします。
摂食・嚥下チーム
食べ物を噛めない・飲み込めない・時間がかかる・食事中にむせる・熱で食べられない・栄養状態の悪いなど、それぞれの患者に対して、チームで栄養や食事の状態、口腔内の衛生をチェックします。
複数の専門家と連携し、食べるための治療や訓練を行って機能回復と肺炎を予防することによる、日常生活での活動量をあげます。
参加するメンバーは、医師・看護師・管理栄養士・救急救命士・言語聴覚士・作業療法士・歯科医師・歯科衛生士・診療放射線技師・理学療法士・臨床検査技師です。
ここでの看護師の担当は、体温と血圧管理や専用管を使った栄養摂取、摂食サポート、口腔ケア、薬の投与のほか、家族への指導などです。
栄養サポートチーム
食欲の低下または栄養状態の悪い患者に対し、適切な栄養管理を行って全身の状態を改善し、合併症を防ぐことが目的です。
参加するメンバーは、医師・医療ソーシャルワーカー・看護師・管理栄養士・救急救命士・言語聴覚士・作業療法士・歯科医師・歯科衛生士・薬剤師・理学療法士・臨床検査技師・臨床工学技士です。
ここでは、看護師は栄養状態の判定のために、食事の摂取状況・嚥下状態のチェック、血液検査や身体測定を行います。結果をもとに相談し、患者の味覚や嗜好、体の状態に合った食事や栄養補給の仕方をサポートします。
患者本人と家族に対して栄養についての説明や、輸液・経管栄養の管理、口腔ケアも担当します。
チーム医療のこれからと看護
日本の高齢化社会はこれからも進み、それだけでなく新型コロナウイルス感染症などの流行や蔓延から医療の必要性は常に高まっています。
需要が高いにも関わらず人材確保が難しい理由は、高い専門性が必要な仕事である上に、人手不足で多忙な日々を送るスタッフが多いからです。
本来ならより多くのスタッフが医療現場にたずさわり、余裕を持って患者のケアにあたる状況が理想ですが、どうにか回せる人数で運営するしかない医療機関もあります。
特に過疎地域は病院に勤めるスタッフ数自体が少なく、患者へ提供する医療格差を招く場合もあります。
2025年問題とは?
超高齢化社会が進む日本で、2025年には団塊世代が75歳以上になり、ますます医療の必要性が増すでしょう。
それを医師ひとりだけで診察・治療してはカバーしきれないため、チーム医療体制をとって専門家間でできる限り業務を分担し、それぞれが得意とする業務に取り組むことが必要です。
病院内だけでのチーム医療ではなく地域まで拡大して患者の医療を分担することで、高齢者数が最も多くなる2025年以降を乗り越えようとしています。
医療・看護・介護など、患者が生活する上で必要な支援を提供するための、地域包括ケアシステムの構築促進を行い、患者やその家族が必要なときに必要なサービスを受けられる形をつくることが必要です。
地域連携型のチームでの看護師の役割
今後地域連携型のチームでは、看護師は能力によって自律的な判断を出せるよう、医師の包括的な指示の活用が求められます。
厚生労働省は医師の包括的な指示をはっきりとさせ、看護師が判断する機会を増やすことをめざしています。
看護師の役割拡大には、専門的な臨床実践能力を持つ看護師の養成が進んでいることも関係しており、今後看護師の専門性を活かして患者のケアにあたる機会は増えるでしょう。
まとめ:チーム医療と看護の在り方
看護師はチーム医療のキーパーソンであり、チーム内の多職種と連携して患者とその家族をケアする役割を担います。
今後さらに必要性の高まるチーム医療は、看護師なくしては成り立ちません。求められる知識や技術の専門性は高いですが、日々学習して正しい知識をつけ、看護の現場でぜひ活かしていきましょう。
今より更に活躍の場が広がるはずです。