「ターミナルケアに興味がある」
「ターミナルケアと緩和ケアの違いを知りたい」
このように考えている方はいませんか。
ターミナルケア看護師は、人生の最終段階にいる患者さんに、最期までその人らしく過ごすことができるようにサポートする重要な存在です。
この記事では、ターミナルケア看護師の具体的な業務や役割をお伝えします。ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
Contents
ターミナルケア看護師の役割と基本
ターミナルケアは終末期医療とも呼ばれ、人生の最終段階にいる患者さんに提供するケアを意味しています。延命のための治療よりも、患者さんのさまざまな苦痛を和らげ、最期のときまで穏やかに過ごせることを重視しています。
ターミナルケアが行われる場所は、病院やお看取り対応をしている介護施設、在宅医療の現場など、患者さんによりさまざまです。ターミナルケア看護師は、患者さんの抱える苦痛を理解し、少しでも和らげることができるよう心身ともにサポートする重要な役割があります。
ここでは、ターミナルケア看護師の仕事の実際についてみていきましょう。
ターミナルケアの日々の業務
ターミナル期における患者さんは、さまざまな苦痛を抱えており、病に対する受け止め方も異なります。
ターミナルケア看護師は患者さんの苦痛を理解し、想いに寄り添うことが大切です。
苦痛は、身体の症状だけではありません。患者さんの状態をさまざまな視点から考え、心身の苦痛をアセスメントします。
ターミナル期の患者さんの苦痛は、大きく4つに分けられます。
- 身体的苦痛
- 痛み:病気の進行による局所的な痛みや臓器の炎症による腹痛、胸痛など
- 呼吸困難:肺の病気や腹水、胸水が貯留することによる息切れ、息苦しさなど
- 吐き気や嘔吐:病気によるものや薬の副作用など
- 倦怠感:病気の進行により体力を消耗し、活動が困難になる状態
- 皮膚:皮膚の感染や褥瘡など
- 精神的苦痛
- 不安や恐怖:死に対する恐怖や不安
- 抑うつ状態;ターミナル期の病状への悲しみや無力感
- せん妄:病気や薬の影響で場所や時間がわからなくなる状態
- 社会的苦痛
- 経済的な負担:高額な医療費や治療のための仕事の中断、収入の減少
- 人間関係;家族や友人との関係が緊張すること、家族間での意見の不一致など
- 役割喪失;仕事や家事などが果たせなくなる苦痛
- 社会的孤立:他社との関わりが減ってしまうこと、社会の情報が入ってこないこと
- スピリチュアルな苦痛
- 存在意義への疑問:人生や病気の意味についての疑問、人生の意義を見出せないこと
- 信仰の問題:宗教的な信念と現在の状況との葛藤
- 罪悪感や後悔:これまでの人生に対する後悔や達成できなかったことへの罪悪感
患者さんとコミュニケーションをとりながら「患者さんの抱える苦痛はなにか」考え続けることが大切です。ターミナルケア看護師は、患者さんの様子の変化を敏感に感じ取り、必要なケアにつなげることが重要といえるでしょう。
看護師としての精神的なサポートの重要性
病気で最期が近づいているという現実を知ったとき、すぐには受け入れられる患者さんは多くないでしょう。
患者さんやご家族は、病気を受け止められなかったり、心身の苦痛で気持ちが揺れたりすることがあります。ターミナルケア看護師の精神的なサポートは、患者さんやご家族が最期のときまで穏やかに過ごすために欠かせないものです。
人が悲しいできごとを受け入れていくまでの過程は5つのプロセスをたどるといわれています。ここでは、例としてターミナル期のがん患者さんの想いをたどります。
- 第1段階:否認と隔離
予期しない衝撃的なことが起きたときや聞かされたときに、ショックをまともに受けないために現実を否認します。
例:がんが進行し、医師から余命があと数ヵ月と伝えられる。「あと数ヵ月しか生きられないなんて何かのまちがいだ!」「そんなことはあり得ない!」
- 第2段階:怒り
喪失や死という現実を認めざるを得なくなると、怒りや恨みが芽生えます。この怒りが八つ当たりとなり、他者に向けられることもあります。
例:「なぜ私だけがこんなつらい目に合わないといけないの?」「あなた(家族)よりがんばってきたのに!」
- 第3段階:取引
失ったもの(命)をどうしたら取り戻せるか、神様や仏様に対して取引しはじめます。
例:「神様、もうほかに何も望まないから、もっと生きさせてください。」
- 第4段階:抑うつ
死が避けられないものだと分かり、現実を直視して無力感に包まれ、うつ状態になります。
例:「もう長くは生きられない。家族に会えなくなってしまう。」
- 第5段階:受容
自分自身の現状を静かに見つめ、穏やかに受け入れられる時期に入ります。
例:「死は誰にでもやってくるもの。最期まで悔いのないように生きたい。」
悲嘆のプロセスは、必ずしも上から順番に進むわけではなく、いったりきたりすることもあったり、複数の段階が同時にやってくることもあります。また、プロセスを通るのにかかる時間も人それぞれです。
ターミナルケア看護師は、積極的にコミュニケーションをとり、患者さんやご家族がプロセスのどの段階にいるのかを察知します。不安や恐れに寄り添い、安心感を提供する重要な役割です。
緩和ケアとターミナルケアの違い
緩和ケアとターミナルケアは、同じものとして扱われがちですが、大きな違いがあります。
両者のケアの目的や患者さんへのアプローチの違いをくわしくみていきましょう。
両ケアの目的とアプローチの相違点
まず、緩和ケアとターミナルケアの定義をみてみましょう。
- 緩和ケア
日本緩和医療学会「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002)」定訳では下記のように述べられています。
「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のクオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。」
- ターミナルケア(終末期ケア)
全日本病院協会「終末期医療に関するガイドライン」では、終末期の定義を以下の3つの条件満たす場合としています。
- 複数の医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断すること
- 患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師等の関係者が納得すること
- 患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考えること
出典:終末期医療に関するガイドライン|公益社団法人 全日本病院協会
ただし、終末期の定義は専門家の間でも異なることがあります。正確に定められている訳ではない点に注意しましょう。
緩和ケアは、終末期だけでなく、病気の進行や疾患に関わらず患者さんの苦痛を軽減し、QOLを高めることを目的としています。一方ターミナルケアは、人生の最終段階にある患者さんへのアプローチで、苦痛の緩和や症状の管理などのサポートを行います。
両者の大きな違いは、緩和ケアは「どのように苦痛を和らげて生きるか」へのサポートに対し、ターミナルケアは「最期を穏やかに過ごす」ためのサポートであるという点でしょう。
また、緩和ケアは病気が診断されたそのときから開始されるのに対し、ターミナルケアは、人生の最期がみえたときから始まり、両者の開始時期も異なります。
緩和ケアチームとターミナルケアチームの協働
人生の最終段階を迎えた患者さんへのサポートは、緩和ケアチームとターミナルケアチームの協働が重要です。
重なる役割もありますが、両チームが介入し密な情報共有を行うことで患者さんに手厚いサポートを提供できるでしょう。
緩和ケアでは、患者さんのQOLを改善するケアを行います。QOLとは日本語訳で「生活の質」といいますが、具体的には「今日も良い一日を過ごしたと思える度合い」のことだといえるでしょう。
QOLは患者さんの主観的なものであり、病気の状態や症状、生活環境、周囲との関係性で日々変化するものであると考えられています。
緩和ケアでは患者さんの苦痛に目を向けることが重要ですが、苦痛だけではなく希望や価値観なども含めて考えることが求められます。そのため、前述した4つの苦痛から、患者さんを全人的にとらえることが大切です。
一方ターミナルケアで重要なひとつとして、治療方針を決定することがあります。
治療方針の決定で重要なことは以下の通りです。
- 本人の意思が確認できる場合はその意思を尊重すること。
- 本人の意思が確認できず、家族などが本人の意思を推定できる場合はその意思を尊重しすること
- 家族などが本人の意思を推定できない場合は、本人にとってなにが最善であるか、家族などと十分に話し合い、本人にとって最善の方針をとること
引用・参考:人生の最終段階における医療・ケアの 決定プロセスに関するガイドライン|厚生労働省
治療方針の決定には、医療者からの適切な情報提供や、患者さん・ご家族・医療者とで十分に話し合うことが重要です。
緩和ケアチームが患者さんの苦痛を全人的にとらえ緩和するケアを行うとともに、ターミナルケアチームが最期のときまで患者さんの希望に沿った日々をサポートします。
時間の経過や心身の状態の変化などにともない、患者さんの想いが変化することもあるでしょう。そのため両チームを含む医療者が密に情報共有し、患者さんやご家族の状況に合わせて適切な情報提供を行います。
また、想いの変化があっても良いことを伝え、患者さんが希望や想いを発信できる環境づくりも大切です。そしてその都度、患者さんを含むチームで話し合い、方針を決めます。
両者が協働することで、患者さんの抱える苦痛が少なく、残された時間を希望に沿ったものにできるでしょう。
ターミナルケア看護師に求められるスキル
ターミナルケアを提供する看護師は、ターミナル期の症状に関する知識や技術だけでなく、強い精神力も求められます。
ターミナルケアに必要とされる具体的な知識やスキルについてみていきましょう。
専門的な医療技術
ターミナルケアでは、患者さんの状態をアセスメントし、適切なときに必要なケアを行うことが大切です。
たとえば、がんのターミナル期に苦痛を感じる代表的な症状である「痛み」についてみていきましょう。
痛みの強さは患者さんの主観的なものです。痛みの感じ方は痛み自体の強さはもちろんですが、患者さんの「痛みを受け止める力」も関係しています。「痛みを受け止める力」は患者さんの不安や心配により弱くなるため、患者さんの話を傾聴し、心の安定を図ることも大切です。
ターミナルケア看護師は患者さんの身体面や精神面、さまざまな視点から痛みの要因をアセスメントします。痛みの程度は「フェイス・スケール」や「ヌーメリック・レイティング・スケール(NRS)」を使用し、数値化して判断します。
患者さんの訴えの主観的情報と、痛みの部位や性状、数値化した痛みの程度などの客観的情報を総合的にアセスメントして、ケアにつなげます。
患者さんの痛みに対するケアは以下の通りです。
- 患者さんの痛みの情報を医師に伝え、オピオイドや非オピオイドの使用を検討し痛み自体の強さのコントトールを図る
- 患者さんの話を傾聴し、心の安定を図る
- マッサージや温罨法などリラクセーションを行う
- 痛みが強い場合に患者さんが我慢せず表出できる環境づくり
「患者さんの今の状態に必要なケアは何か?」を考え続けることが大切ですね。
そのほかにも、ターミナル期にみられる患者さんに現れる症状は以下のものがあります。
- 倦怠感
「身の置きどころのないだるさ」と表現されることが多い症状です。薬の副作用が原因であったり、不安や不眠、胃の不快感などを伴ったりすることがあります。
- 食欲不振
病気そのものの影響や体力の低下、治療や薬剤による副作用、精神面の影響など、さまざまな要因があります。
- 呼吸困難
病気の進行によるものや肺や心臓の病気、治療や薬物などが要因です。咳や胸の痛みが一緒に現れることもあります。
- 腹水
病気によるものや循環状態の悪化、栄養状態の低下によるものなどさまざまな要因で起こります。腹水が溜まると、呼吸困難や腹部の膨満感が伴うことが多く、患者さんの苦痛は大きいでしょう。
ターミナルケア看護師は、ターミナル期に現れる患者さんの症状とその対応の知識を持ち、適切な介入を行う重要な役割があります。
そのため、患者さんの変化を敏感に察知し、患者さんの苦痛が大きくなる前に対応することを大切にしたいものです。
コミュニケーションと倫理的な判断力
ターミナル期の患者さんのサポートには、コミュニケーションスキルも重要です。また、患者さんの最期を考えるときには倫理的な判断も必要とされます。
たとえば、ターミナル期の患者さんに「最期までトイレに行きたい」という希望があったとしましょう。
しかし現実には、全身状態の低下にともない筋力や体力も低下し、転倒するリスクが高い状態です。
このような場面のとき、以下のような考えがあるでしょう。
- 患者さんの「最期までトイレに行きたい」という意思を尊重するのか
- 転倒のリスクや身体への負担を考えベッド上排泄やおむつの使用をすすめるのか
患者さんの意志を尊重するのか、患者さんの安全のための判断にするのか、倫理の枠組みで考える必要があります。
そこでターミナルケア看護師に必要なのは、患者さんやご家族、医療チームでしっかりとコミュニケーションをとることです。
医療者の考えを一方的に伝えるのではなく、患者さんやご家族が自分たちで選択できるようにサポートすることを優先します。患者さんの希望を叶えるためにできることや工夫を一緒に考える姿勢を大切にしたいものです。
ターミナルケアの社会的な意義と看護師の役割
ターミナルケアは、病気に対する治療やケアだけでなく、社会的にも必要とされています。
ターミナルケア看護師が患者さんや家族にとってどのような存在であるべきなのか、また社会的な役割としてどのようなものがあるのか詳しくお伝えします。
ターミナル期の患者と家族への影響
ターミナルケア看護師の存在は、患者さんだけではなくご家族へも大きな影響を与えます。
なぜなら、ターミナルケア看護師は、最期のときを一緒に過ごすとても重要な存在だからです。最期のときをどのように過ごすかによって、患者さんの人生の満足感や、ご家族の気持ちも変化するでしょう。
ターミナルケア看護師がご家族の心の支えとなるためには、患者さんとご家族の療養生活や看取りへの満足感が得られるようにサポートすることが大切です。
療養生活や看取りへの満足感とは、以下のようなご家族の思いが考えられるでしょう。
- 穏やかな最期を迎えることができた
- 患者さんの希望を叶えることができた
- 友人や親戚、医療スタッフなどいろんな人に助けてもらった
ご家族が患者さんの最期のときや看取りのときを肯定的に感じられることは、患者さんを亡くして悲しみの中にいるときの救いになります。
ご家族の中には「もっとできることがあったはず」「こうしてあげたらよかった」と心残りを抱える人も少なくありません。ご家族の後悔の気持ちに対して、そばで一緒に過ごした看護師がご家族のがんばりをいたわることで、ご家族が抱える想いを軽くできるかもしれません。
ターミナルケア看護師は、人生の最終段階を迎えた患者さんとご家族とともにかけがえのない時間を過ごします。患者さんだけでなく、ご家族にとっても大切な存在となるでしょう。
患者さんが亡くなった後も、残されたご家族の生活は続きます。今後のご家族を支えるもののひとつに、ターミナルケア看護師の存在があるといえます。
ターミナルケア看護師が果たす社会的責任
ここまで、ターミナルケア看護師が患者さんの尊厳を守り、最期の日々をサポートする役割があることをお伝えしてきました。患者さんやご家族に対して心身へのケアを提供するとともに、寄り添い一緒に考える姿勢も必要です。
ターミナルケア看護師の社会的に必要とされる役割と内容をまとめました。
- ターミナル期の患者さんの尊厳を守る
ターミナル期の患者さんの尊厳を守ることを第一に考え、必要なケアを提供します。痛みを含む全人的な苦痛の軽減を図り、患者さんの希望や価値観を尊重します。最期まで患者さんが穏やかに過ごせる環境づくりは看護師の重要な役割です。
- ご家族への支援と教育を行う
ターミナル期の患者さんのご家族に対して、病気の症状やケアの方法、ターミナル期の経過についての情報提供やサポートを行います。ご家族が患者さんの最期をともに過ごす中での精神的負担や不安を軽減するために精神的なサポートも重要です。
- 専門的なケアの提供
病状や苦痛の緩和を通じて、患者さんの生活の質を向上させることがターミナルケア看護師の重要な役割です。薬物療法だけでなく、リラクゼーションやカウンセリングなどの非薬物療法も含まれます。ターミナル期の専門的な対応やケアの知識が必要です。
- 医療チームとの連携
ターミナルケアでは、医師やソーシャルワーカー、心理カウンセラーなど、多職種と連携して包括的なケアを提供します。ターミナルケア看護師は必要な介入やケアを調整する役割を担っています。
- 意思決定支援
患者さんの希望を叶えるための方法を患者さんやご家族自身で選択できるように支援します。看護師は患者さんのこれまでの人生や価値観を理解しようとする姿勢も大切です。患者さんやご家族が意思を表出できる環境づくりや、どのような選択肢があるのか情報提供し、必要なケアが受けられるようにサポートします。
このように、ターミナルケアにおいて看護師は幅広い役割があります。
厚生労働省による地域包括ケアシステムの推進により、今後は自宅で最期を迎える方が増えるかもしれません。そのため病院だけでなく介護施設や自宅など、ターミナルケア看護師が役割を担う場所は広がり、社会的な責任も大きくなるでしょう。
まとめ~ターミナルケア看護師について
ターミナルケア看護師は、人生の最終段階を迎えた患者さんやご家族の穏やかな日々をサポートする重要な存在です。
ターミナル期における幅広い知識やスキルが必要ですが、専門性が高く、社会的にも重要視される役割があります。
この記事が、ターミナルケア看護師の仕事に興味を持っている方の参考になれば幸いです。
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