この記事では認知症ケア技法の一つである「ユマニチュード」について、その考え方や効果、実践方法・認知症を抱えた高齢者への看護のポイントを具体的に解説します。
Contents
看護師が押さえたいユマニチュードの考え方
はじめに、ユマニチュードの考え方について解説します。ユマニチュードについて正しく理解できるため、参考にしてください。
ユマニチュードは、1979年にフランスで生まれた認知症ケア技法の一つで、日本でも2011年頃から取り入れられるようになりました。
ユマニチュードは、認知症を患った高齢者とのコミュニケーションを改善し、認知症患者さんが安心感を得ること、そして穏やかに過ごすことを目的としています。
フランス語で「人間らしさを取り戻す」という意味をもつユマニチュード。
「ケアをされる人」と「ケアをする人」のそれぞれに着目した哲学がその基本となっています。
看護師や介護士など患者のケアを担う側が、患者に対して何でもやってあげすぎていることを問題視し、患者自身の能力を最大限に引き出す必要があるという考えのもと誕生しました。
ユマニチュードでは、認知症患者をケアする看護師には3つの力が求められています。
- 心身の回復をめざす力
- 機能維持
- 最期まで寄り添う力
看護師が押さえたいユマニチュードの効果
ユマニチュードは、ケアを受ける側もケアをする側にも良い影響をもたらします。
ユマニチュードを取り入れている現場からは、
- 「いつも怒っていた高齢者が穏やかになった」
- 「看護師のケアを嫌がっていた高齢者が笑顔でケアを受け入れるようになった」
など、患者の攻撃的な言動が改善され穏やかになったという報告が多数されています。
また、介護者との会話が増えることや関係性が築けることによって、認知機能が改善された報告もあります。
ユマニチュードでは、ケアを受ける側が穏やかな気持ちになることでQOLの向上や生活の充実化が図れるのはもちろんですが、ケアをする側である看護師にとってもプラスの効果をもたらします。
自分が提供したケアを肯定的に捉えられるようになり、やりがいや達成感を味わえるようになります。
看護師が押さえたいユマニチュードの4つの柱
ユマニチュードには、以下の4つの柱があります。
- 「見る」技術
- 「話す」技術
- 「触れる」技術
- 「立つ」技術
それぞれについて、順に解説します。
ユマニチュード4つの柱①「見る」技術
認知症患者への看護において重要なのが、「見る」技術です。
単に患者を見るのではなく、患者のことを大切に思っていることを態度で示すことが何よりも重要です。
そのためには、常に患者と視線を合わせるよう意識することが大切です。
高い位置から患者を見下ろすなど、威圧的な態度はとらないように注意しましょう。
対等な立場であること、患者のことを理解したいと思っていること、そして誠実さが伝わるように心がけます。
ユマニチュード4つの柱②「話す」技術
二つ目の柱は「話す」技術です。
認知症患者への看護においてコミュニケーションが重要であることはいうまでもありません。話すことは、認知機能への働きかけにもなります。
患者との会話の際には、ゆっくりと穏やかに、そして丁寧に話しかけることを心がけましょう。
清拭や投薬などのケアを行う際には、「今何をしているか」「これから何をするか」を伝え、患者が自分の身に何が起こっているかを認識できるようにします。
ときには、患者に話しかけても反応が戻ってこないこともあるかもしれませんが、それでも問題はありません。患
者は看護師の言葉を聞くことで、自分自身が孤独でないこと、大切にされていることを実感できているからです。
ユマニチュード4つの柱③「触れる」技術
三つ目の柱は「触れる」技術です。
看護において、患者に触れる行為は必要不可欠です。
ケアの途中や観察の途中などで何気なく患者に触れることがあるかもしれませんが、決して急につかんだり乱暴に触れたりすることがないようにしましょう。
触れる際は、「失礼します」と一言添えたうえで、手のひらで患者を優しく包み込むような気持ちで、大切に触れます。
腕や胴体などの比較的鈍感な部位から触れるよう心がけ、身体を起こす際はゆっくりと支えるようにしましょう。
ユマニチュード4つの柱④「立つ」技術
四つ目の柱は、「立つ」技術です。
高齢者のなかには、1日の多くを座位や臥位で過ごす人もいることでしょう。
しかし、立つことは、患者が「自分はここに存在している」と認識するために非常に重要な行為なのです。
自力での立位が難しい場合には、清拭や入浴、トイレなどのケアの際に、少しずつ立位を取り入れてみましょう。
「立てた」という達成感は、患者のモチベーション向上にもつながります。
看護師が押さえたいユマニチュードの5つのステップ
ユマニチュードでは、すべてのケアを一連の物語のような手順「5つのステップ」に沿って実施していくことで、患者と看護師の間に信頼関係を築くことができます。
5つのステップは、以下のとおりです。
- 出会いの準備
- ケアの準備
- 知覚の連結
- 感情の固定
- 再会の約束
順に解説します。
ユマニチュード5つのステップ①出会いの準備
看護師が患者のもとを尋ねる際は、突然入室するのではなく、患者が看護師を受け入れる準備ができているか確認する必要があります。
部屋の外からノックをすることで来室を知らせ、入室しても良いかを確認しましょう。
患者からの反応がない場合にはもう一度ノックし、それでも反応がなければ「失礼します」といってから入室します。
このように「出会いの準備」をすることで、患者の動揺や混乱を軽減できます。
ユマニチュード5つのステップ②ケアの準備
二つ目のステップは、ケアの準備です。
入室後ただちにケアを開始するのではなく、目線を合わせた状態で「会いに来ました」「よろしくお願いします」などと伝えることで、患者と関係性を作ります。
そのうえで、今から行うケアについて説明し、同意を得ましょう。
ケアは、看護師が一方的に行うものではなく患者と共に行うものであるため、患者の同意が必要です。
ケアの準備の段階を経ることで、認知症患者の攻撃的な言動が7割ほど減少しケアに協力的になれることも明らかになっていますので、丁寧にアプローチしていきましょう。
ユマニチュード5つのステップ③知覚の連結
三つ目のステップは、知覚の連結です。
知覚の連結とは、ユマニチュードの4つの柱のうち「見る」「話す」「触れる」の技法を用いて、患者を大切に思っているという気持ちを伝えることです。
単に「見る」「話す」「触れる」だけではなく、言葉と行動の調和にも意識を向け、看護師の言動すべてが患者の安心につながるようにしましょう。
ケアを受ける際に、患者が不快な思いをせず安心した状態になれるような雰囲気作りを心がけることが重要です。
ユマニチュード5つのステップ④感情の固定
四つ目のステップは、感情の固定です。
感情の固定とは、患者がケアを受けた経験についてプラスに捉え、良い記憶として残してもらうことです。
認知症患者は、病状の進行に伴い新しい出来事を記憶するのが困難になっていきますが、感情の動きがあった出来事については記憶しやすい傾向にあります。
この特性を活かし、看護師との時間が素敵なものとなるよう、工夫しましょう。
ケアの終了後には、ケアを受け入れてくれたことや協力してくれたことに対してお礼の気持ちを伝えたり、「気持ちよかったですね」「さっぱりしましたね」などとプラスのフィードバックをしたりすると効果的です。
ユマニチュード5つのステップ⑤再会の約束
最後のステップは、再会の約束です。
患者のもとを去る際には、「また伺います」「またお会いしましょう」などと、再会を約束する言葉を伝えましょう。
患者は看護師と過ごした時間ややり取りを忘れてしまうかもしれませんが、看護師と良い関係を築けることで、「自分に優しくしてくれる人がまた来てくれる」「自分に興味をもってくれている人がいる」という温かな気持ちを味わいます。
そうすることで感情が記憶として残りやすくなり、次に顔を合わせた際に看護師を前向きに受け入れてくれるようになります。
次に患者のもとを訪れる時間や目的が決まっている場合には、紙やホワイトボードなどに記して患者のもとに置いておくのも良いかもしれません。
ユマニチュードの看護研究
日本でユマニチュードの技法が取り入れられてからはまだ10年ほどですが、国内でもユマニチュードに関するさまざまな看護研究が行われており、今後さらなる普及が期待されています。
ユマニチュードに関する看護研究結果をいくつか紹介しますので、ぜひ確認してみてください。
まとめ:看護現場におけるユマニチュード
今回は、看護現場におけるユマニチュードについて解説しました。
ユマニチュードにおいて大切なのは、認知症患者と関わる際は「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱を心がけること、そして5つのステップに沿って関わることです。
この基本を守ることで、患者と看護師との絆を強められ、患者の穏やかな療養生活につながります。
認知症患者との関わりにはさまざまな問題や課題がありますが、まずはユマニチュードについて意識した関わりを持つことから実践してみましょう。
看護師の誠実な姿勢は、患者に伝わるものです。